鬼さんこちら、

□錬金術師の苦悩TTT
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「はぁー、」


漏れたため息は予想外に重くて、
吐き出されたまま
鉛色の空に吸い込まれていく。

窓枠にもたれたまま外を見ていた俺に、
痺れを切らしたようにアルが声をかけてきた。




「兄さん、ため息何回目だよ…。
一体どうしたのさ?」


「アルゥ…
女ってわかんねぇな…」




何をいきなり、と首を傾けた弟だったが、
思い当たったのかすぐに声をあげる。





「…ああ、エリオットさん?」




流石は弟。
的を得た回答だ。満点。




「わっかんねーよなぁ…。
二つ名すら不明のうえに、
賢者の石らしきものを錬成するなんて、
何者なんだよ…」






やっと思い至ったのだ。

彼女を初めて見た時の微かな違和感。


あれは、
前の街でペテン師な教祖サマが持っていた賢者の石の“紅”と、
彼女の髪目の“紅”の色が同じだったからだったのだ。





−なんの偶然だろうか






だけど、問い詰めようとしても
彼女はのらりくらりとかわしてしまう。

あまりにも、遠いのだ。
  その、  心が。






「暫くは、あいつに張り付いてるってのもアリかもな…」



そう呟けば、
アルは複雑そうなため息をはく。


なんだよ、文句あっか。




「今の所それが一番有力な道だしね…。
だけど、なんだか利用してるみたいで気が引けるよ、」


「…うっ、…し、仕方ないだろ!
俺だって心苦しいさ」




ばふりとベッドにダイブすれば、
思い出すのは紅色の目。
意志が強くて真っ直ぐなその瞳がいたたまれなくて、俺は枕に深く顔を埋めた。





いつかは、あいつにも、


俺達の過去がばれる時が来るのだろうか。



今までならば
情報の為にと口を割ってきたその話が、
あいつの耳にも入るという事だけは
なぜだかすごく怖かった。





「…嫌われる、かなぁ」




そんな想像を掻き消すように、
俺は布団をばさりと被った。


「お休み、アル」


「お休み、兄さん」



鎧から響く優しい声が薄らぎ、
意識が遠退いていくのがわかる。




明日もまた、
あの紅に会えるだろうか、






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