鬼さんこちら、

□錬金術師の苦悩TTT
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「ねえ、エリーおねーちゃんはどうして旅をしてるの?」




エド達が帰ってから数時間。

もう寝る時間になったニーナと一緒にベッドへ座り込み、互いの髪を弄りあっていた時の事。
なんの脈絡もなくふられた話題に、
軽く首を傾けた。
すると、
私の短い髪を必死にピンで止めていた彼女から動くなとのブーイングがくる。

ごめんなさい。




「うんとねー、
大切なものを、探してるんだ」


「大切なもの?」


「うん、凄く、欲しいんだ」


「そっかぁ…」



きっと見つかるよ!大丈夫!、と笑いかけてくれたニーナに、ありがとうと頭をなでてかえす。


その優しい笑顔に、私は何度救われたんだろうか。
きっと、
それは数えても数えきれないと思う。

私の紅い髪を弄る小さな手を眺めながら、ぼんやりと考えた。



「出来た!
エリーおねーちゃん、可愛い!」


「ほんと?照れるね、ありがとう。

さ、次はニーナだよ」



ニーナが向けてくれた鏡には、
可愛いピンで完全に頭をホールドされた私が映っていた。
何個つけたんだいニーナ…。


だけど、彼女の頑張りと誠意は嬉しかったのでお礼を言い、今度はニーナを私の膝に乗せる。

ニーナの長く柔らかい髪を持ち上げて、

「なにかご要望はありますか?」

と問えば、

「お姫様みたいなのがいい!」

とのなんとも女の子な返答が返ってきた。
あーもう、可愛いなこのやろう。



「りょーかい、お姫さん」

思わず微笑みながら、
彼女の髪を櫛でとかしていく。
ツインがいいかな…。
うん、ニーナはツイン似合う、きっと。



早速、
彼女の髪を二つにわける事にする。
あー、髪柔らかい、うらやましい。



そんな事を考えていたら、
ふと、ニーナが呟いた。






「エリーおねーちゃんは、
帰るお家あるの?」




「……うーん、
私は旅の根無し草だからなぁ…」




そういえば、
エルリック兄弟もそうだったかね。


そんな事を思い出しながら答えれば、
ニーナがばっとこちらを振り向いた。

あ、せっかく髪わけたのに…




だけど、
彼女の真剣そうな面持ちにそんな言葉はのみこまれてしまった。

どうしたの、と問うより早く、



「エリーおねーちゃんの帰るお家は、ここだよ!」







圧倒、


されてしまった。





「もし、エリーおねーちゃんが
探し物見つかって旅が終わった時は、
ニーナの所に帰って来てね!約束だよ!」




約束、そう言って差し出された小指に、
胸が詰まった。



悟られてたのだろうか、

彼女は賢い子だから




私の心の中に巣喰う、淋しさに。




必死に契りを求める彼女に、
笑顔と苦笑のごちゃまぜになったようなものが込み上げてきた。



…嗚呼、本当に−−

「ありがとう。ニーナ」


そういいながら彼女の右手の小指に
己の右手のそれを絡めれば、
ニーナは笑った。

にぱりと、眩しい位の笑顔で。




「じゃあね、ニーナは、
私が帰って来るまで元気でいる事。
約束できるかい?」



対等に、と彼女にも約束を出せば、
ニーナはその表情を使命感に引き締めた。


単純だけど、大事な約束。



「うん、ニーナ守るよ!」

「私も、守るよ」




誓いの指切りをして、
私達はまた髪弄りを再開させた。




ありがとう、ニーナ。

彼女の髪を二つに縛りながら、
心の中で何度も何度もお礼を言った。

彼女の優しさが、ただ嬉しかった。



頬を伝った温かさは、
何年ぶりのものだろうか。


とっくに尽きたとばかり思っていたそれを、嬉しさ故に流す日が来るなんて。




ありがとう、

また一つ呟いて、彼女に悟られる前に素早く拭った。




さて、
ニーナをお姫様にしてあげなくちゃだね





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