鬼さんこちら、

□錬金術師の苦悩TT
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タッカー家に来て二日目。


母親がいないと教えてくれたニーナはやはり淋しげで、我慢できなくなった俺達は彼女を庭へと連れ出した。



少しでも寂しさを忘れてくれればいい。



そう思った感情の裏には、
ただたんにニーナと昔の俺らが重なったからかもしれない、
なんて考えがちらついた。




「……、あれ?」



そこで、ふと、後ろに鮮やかな紅髪がついて来ていない事に気がつく。



振り返って見れば、エリーはこちらに向かって手を振っていて、
来る様子はないとわかる。





「エリオットさんは遊ばないの?」




アルが首を傾げながら尋ねれば、
彼女はゆるく頷きながら微笑んだ。



「私はいいや。タッカーさんにコーヒーでも出してくるよ」




そう言うエリーは、
普通な様子のはずなのに何処か淋しげで。


嗚呼、
知り合ってからはたった三日だけど、
彼女はこの表情が一番多い気がする。






何故だか

それが放っておけなくて、
俺は無意識にエリーへと手を伸ばしていた。


だけど、





「兄さん、何してんの?
行こうよ?」





その手が届くより前に、彼女は踵を返して歩いて行ってしまった。






「…あ、ああ。今行く」





空をさ迷った掌を握り締め、
ため息をはくと俺も彼女に背を向けて返事を返す。



渦巻くやりきれなさを噛み殺そうとして、
そこで握ったそれに小さな温かさが触れるのを感じた。




「…ニーナ?」



不思議に思って名を呼べば、
彼女は嬉しそうににぱりと笑う。





「あのね、お兄ちゃん!」




立ち止まった俺達に気づいたのか、
少し先に進んでいたアルもこちらを振り返った。




「エリーお姉ちゃんはね、
すっごく楽しくて優しくて、あったかくて、お母さんみたいなの!」

「?、うん、」


「いろんなお話してくれるし、
いっぱい遊んでくれる。

でもね、
エリーおねーちゃんは、
笑っていてもいっつも悲しそうなんだ」


「…、うん」




どうやら、
ニーナも気づいていたらしい。

エリーの心の曇りを気にする彼女は凄く心配そうで、だけども
とても強い瞳で俺達へと視線を上げた。




「ニーナ、エリーおねーちゃん大好きなんだ!
だから、絶対幸せになってほしいの!
だからね、エリーおねーちゃんが泣かない様に、助けてあげて!お願い!」




小さいながらも真剣に語る彼女は、
その瞳にうすらと涙を浮かべた。


エリーをお母さんみたい、と言ったニーナには、きっと苦しむ彼女が去って行ってしまった本物の母と重なってしまうのだろう。




目をつむれば、
思い起こすのは昨日の姿。

拒絶した背中は酷く重たげで、
その細さの上にいったいどれ程の荷物を抱えているのだろうか。



全く知らない彼女の事がなんだか凄く悔やまれて、







「…おう、」




俺達は、小さなニーナの手をぎゅっと握り締めながら頷いた。





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