鬼さんこちら、

□紅の彼女
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「…あれ?
エリオットさん!?」


兄さんと別れて一人宿屋に向かった僕は、
そこのフロントで先程衝撃的な別れをした人と出会った。





「あ、アル君だ」





大佐達から走り去った筈の彼女は、
数時間前と変わらない笑顔を僕に向けてくれる。





「また会ったね。
ていうか、さっきはどうしたの?」



何で大佐から逃げたのか、
そう問えばエリオットさんは頬を掻きながら苦笑した。



「あー、
私事実上大佐の部下でさ。

今諸事情で旅してるんだけど、
それを無断でしてきちゃったから」



あはは、と彼女は笑ったけれど、

え、
ちょっと待ってそれって大丈夫なの?



少し呆れながら
ふ、と下を見れば、
エリオットさんは靴も履いていなかった。


嗚呼、
そういえば駅で投げ捨ててた気がする。





「ほんとはこっそりこの街を通過する予定だったんだけどさ、
まさかのトレインジャックで見つかっちゃって。
だから、チェックしてたこの宿も取り消す事にしたんだ」




からからと笑う彼女は、
なんだか…






「…エリオットさんて、
僕の兄さんに似ているね」



思わず声に出して呟けば、
彼女はきょとんとした顔をした。

なんだか幼い仕種が、
また兄のそれと被って見える。




「兄さん、て、お豆君?」



嗚呼、兄さん、
名前覚えられてなかったよ…


そんな事を思いながらもこくりと頷く。




「うん。
なんか、無鉄砲な所とか豪快な所とか、
凄い似てる。
ほっとけない、て感じかな?」


「なんだそりゃ…」



エリオットさんは少し複雑そうな顔をして首を傾げて。




そこで、
フロントに飾られた古い置き時計が五時を知らせる音を刻んだ。





「あ、やば、兄さん待ってるんだった!」



今頃東方司令部でしかめつらをしている噂の本人を思い出し、僕は少し慌てて顔をあげる。



「あー、
それは早く行ってあげなくちゃ」



エリオットさんも笑って促してくれたが、
僕はそこでまたも問題を思い出した。



「あ、部屋!まだ取ってない!」




そうだ。
僕はまだ当初の目的を果たせていなかったんだ。




「ん、じゃあアル君、これ使い?」




まごつく僕を見て、
エリオットさんは不意に何かを取り出す。




「まだ取り消してないから大丈夫だよ。
私の部屋使ってくれ」



手渡されたのは、この宿屋の鍵。



「え、でも…!」

「いいよ。
どうせ取り消すつもりだったんだ。
使ってくれた方が、その手間も省けて有り難い」




その言葉が僕に気を使ってのものでないのはすぐにわかった。
でも、話す声の節々に
すごく優しさが感じられて。



なんだか、こんな風にされるのは久しぶりだな、なんて考えた。




にかり、と笑った彼女は
少し強引に僕に鍵を握らせる。


つい、その笑顔に流されて
ありがとうと受けとってしまった。




「ん、じゃあ私行くね。
またね、アル君」




そう言うと、
エリオットさんは紅く染まった街に駆けていった。
その足にはやっぱり履物がなくて、
なんだか少しハラハラする。




嗚呼、
今度会ったら、お礼に靴をプレゼントしようか。





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