鬼さんこちら、

□車上の戦い、T
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―東方司令部、執務室。





真っすぐな廊下は昼の温かな日を取り込んで明るい。
その中を足早に闊歩して
自分の仕事部屋の扉を開けながら、
私は一歩後ろを歩く中尉の説明に耳を傾ける。



「乗っ取られたのはニューオプティン発、特急〇四ハ四〇便。
東部過激派“青の団”による犯行です」

「声明は?」

「気合入ったのが来てますよ。
読みますか?」

「いや、いい」

どうせ我々軍部の悪口に決まっている、
そう返せば中尉はごもっともと頷いた。



「要求は、現在収監中の彼らの指導者を解放する事」

「ありきたりだな。
…で、
本当に将軍閣下は乗ってるのか?」

「今、確認中ですが、おそらく」


誰へもなしに投げた疑問には、
きちんと返答が返ってくる。
本当に優秀な部下達だ。




「困ったな。
夕方からデートの約束があったのに」


「たまには俺達と
残業デートしましょうやー」



まずい茶で、

そう付け加えられた言葉には賛同する。

何がいけないのか、この東方司令部で出されるお茶は本当にまずい。

そんなものをお供にした残業は、是非とも遠慮したいものだ。





「やはり、ここはひとつ
将軍閣下には尊い犠牲になっていただいて、さっさと事件を片付ける方向で…」

「バカ言わないでくださいよ大佐。
乗客名簿あがりました」



部下から手渡された乗客名簿を受け取り、ざっと目を通す。
目的の名前は特別車両の位置に直ぐに見つかった。



「あー…
本当に家族で乗ってますね、ハクロのおっさん」

「まったく…
東部の情勢が不安定なのは知ってるだろうに、こんな時にバカンスとは…」



その癖文句を言う口は一人前なのだから、本当に上層部は始末に負えない。

痛むこめかみを抑えていれば、
視界の端に映った名前に自然と口角があがるのを感じた。




「ああ諸君、
今日は思ったより早く帰れそうだ」




そこにあるのは
小生意気な国家錬金術師の名前。



「鋼の錬金術師が乗っている」







そこまで言って、私の目は自然と彼らの隣の車両の名簿へと惹きつけられた。



そこにあるのは、
見間違うはずもない、
数年前から音信不通になっていた私の愛しい部下の名前。



「中尉、至急捕獲網を用意てくれ」

そう声をかければ、彼女はきょとんとした視線で疑問を投げてきた。


それに薄く口角をあげ、
私は乗客名簿のある一点を指差してみせる。




「やっと彼女を見つけたよ。
これは、何としてでも捕まえるしかないだろう?」



その名前を目にした中尉は、暫し驚きに目を見開く。
彼女のそんな顔はなかなかに貴重だ。

だが、逆にそれが事の大きさを物語っていて、私は満足げに首を傾ける。




「な、中尉?」



「…ええ、これは、猛獣用の網を用意してでも捕まえなくてはなりませんね」



中尉は力強く頷いてくれた。

さあ、感動の再開といこうじゃないか、




−エリオット






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