鬼さんこちら、

□始まり始まり
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「すみません、お客様。
ただいまテロ防止の為に身体検査を行わせて頂いております。
何とぞ、ご協力お願いします。」


此処は、
アメストリス東部へと向かう列車が出ている駅。
蒸気機関車特有の
この炭の匂いは嫌いじゃない。



テロだなんてせちがらい世の中になったもんだな、なんて考えながら身体検査を終える。
そして列車へ向かって歩きだそうとして、




「お、お客様、身体検査にご協力お願いします!」


「…あ、えっと、
僕この鎧脱げないワケがあって…っ」





何やら自分の後ろに並んでたヒトがトラブルみたいだ。




興味本位で振り向けば、
そこには私の何倍もある巨体の鎧さん。

確かにあれでは怪しさ満点だろう。





−だけど、





「………猫だ…」





そう、
鎧さんの腕の間接の隙間から覗くのは、
つぶらな瞳のちっさい猫。


何故、鎧in猫…?


ますます不思議だったが、
なんだか面白そうな人だったので、
私は助け舟を出すことにした。



後に思えば、これが関わり深い縁しの初めの出会い。





「すんません、おねーさん。
この人私のつれなんだ。
怪しくないから、
見逃してくれないかい?」




突然割り込んだ私に、
驚いたのは鎧さん。
だけどそれには視線で黙るように促し、
不信感溢れる眼差しを寄越してくるおねーさんに腰に下げた物を掲げて見せた。



「こ、国家錬金術師様…!!」





それは、
軍の人間である事を示す銀に輝る時計。

正直軍は好きではないが、
場合が場合。
利用出来るものは有り難く使わせて頂こう。




驚愕の声は直ぐに畏まったものへと変わり、おねーさんは慌てて鎧さんを通してくれた。
ちらりと横目で隣を見れば、
鎧さんもまた驚いた様子でこちらを見ている。



私はまたも視線で彼を促し、
いかにも連れですといった感じで列車へ乗り込む。

暫くは無言で車内を移動していれば、
怖ず怖ずと鎧さんが声をかけてきた。



「あ、あの、お姉さん!」

「なんだい鎧さん?」

「あ、ありがとう、助けてくれて。
兄さんとはぐれちゃって、上手い説明が出来なくて困ってたんだ。」




鎧さんの声音は凄く優しい。
というか、幼い。

ぶっちゃけ見た目のいかつさとのギャップが物凄いんだが、なんだか可愛いのでそれはどうでもいいか。



嗚呼、「鎧さん」より「鎧君」の方がしっくりくるかな?






「それは良かった。
でも、なんかあったらえらいことになっちまうから、テロなんか起こさないでね?」


ちょっと冗談めかして言えば、
鎧君も笑いながら返してくれる。


「ははっ、
そんな事しないから大丈夫だよ。

でも、お姉さん何で助けてくれたの?
もしかしたらホントにテロ組織の一員かもしれないのに」


そう問い掛ける鎧君の声はやはり優しげで。


私はくすりと笑いながら、
彼の体をこつんと小突いた。




「にゃあ」


そう鳴きまねをしてみれば、
鎧君は少し焦ったそぶりで一歩後退。



しかし、






にゃー




そんな彼の動揺と裏腹に、
鎧の中からは可愛らしい鳴き声が聞こえてきた。




「…にゃ、にゃああ…、
…なんちゃって…、」


必死に自分も鳴きまねをしてごまかそうとしている鎧君。




「………………………ぶ、くっ!」




その姿が可笑しくて、
つい堪えきれず噴き出してしまう。



「な、あ、あああもう、
笑わないでよっ」


「はは、は、ごめんよ。つい。」




眉根を下げて謝罪するが、
まだ口元が笑っているので我ながら説得力がない。
鎧君はそれに少々拗ねてしまったらしく、
私は慌てて理由を述べる事にした。


「こんなに可愛らしい君なら、
テロなんてするわけないと思ってね。」

「か、可愛…!?」



鎧君は何やら驚愕した様子で、
しげしげと私を見つめてくる。


「…なんだい?」



問えば、彼は心底納得した感じで一人頷いた。



「お姉さん、天然のタラシっぽいね」



「…は、?」


「あ、いや、こっちの話。
でも、ホントにありがとう」



鎧君があんまり嬉しそうな声音でいうので、顔こそ見えないがきっと今は満面の笑みなのだろう。
そう思えば、こちらも自然と口元が綻んだ。


「どういたしまして」






ここまできて、
数多くならぶ座席の一つに鎧君は自分の席を見つけたようだ。

会話しながらちゃんと確認してたんだから、うん、しっかり者だ。




「あ、じゃあ僕、ここの席だ。
兄さんまだ来てないから待ってなきゃ。
お姉さんホントにありがとう」


自分の席はもっと奥のようなので、
私は次の車両への扉に手をかけながら振り返る。


「またね、鎧君」



そこで、
彼は思い出したように声をあげた。



「あ、僕、アルフォンス!
アルだよ!お姉さんは?」


その言葉が再開を望んでいるのだと理解して、私は少し嬉しくなる。


「私はエリオット。
エリオット・キルギスタっての。
よろしくね、アル君。」


「うん!」




嗚呼、
猫が好きな様子の彼はきっと、
尻尾を振る犬のような可愛い笑顔を浮かべているだろう。



そんな事を想像しながら、私は次の車両へと踏み込んだ。






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