▽初等部・男女主X


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「本当に、皆さまにはご迷惑をおかけしました」

申し訳なさそうに、一葉は言う。

琥珀、棗、流架、蜜柑が、正門まで送ると言ってくれたのだ。

別れの時間を惜しむように、自然と歩みもゆっくりになる。




「もう謝らないで」

と流架はわらう。

「八神家のこういう騒ぎ、俺たちは慣れてるしな」

なんでもかんでも大袈裟だからな、と棗は言っていた。

2人はあまり気にしていない様子だった。

蜜柑のほうは、あれから何かと話し相手になってくれていて、一葉としては心強い存在だった。

琥珀とも、特に気まずくなるわけでもなく、普通に接していた。

というより、琥珀がそうするように努めてくれているのがわかって、また彼のやさしさに触れた。

学園でも婚姻の話題をわざわざ表立って言う人はいなくなった。

これは、琥珀によるなんらかの圧力が影響していることはわかったが、

あえてくわしくは聞かないでおこうと思った。





「蜜柑さんと話すと、安心しますね。

その関西弁。

私も普段は関西弁やから」

笑う一葉に、えっと驚く蜜柑。

この1週間、一葉の関西弁はきいたことがなかったのだ。

しかし言われてみれば、2人は出身地が同じ京都だった。

琥珀もまた、驚いているようだった。

「なんで今までしゃべらなかったん?」

「小さいころから矯正されてたんやけど、

仕事が増えてからは敬語が増えて、ついこっちの言葉が染み付いてしまって...」

しばらくは訛ってなかったんやけど、蜜柑さんと話してたらつい...

そう言って笑う一葉に、蜜柑は少しでも心を開いてもらえたと、嬉しくなる。




「学校って、こんなに楽しいんやね」

一葉は終始、笑顔だった。

「一葉ちゃんも、こっちで勉強すればええのに。

それはダメなん?」

そうやなあ、と空をあおいで一葉は言う。

「今さらですよ。

私は今、五色家でさまざまな仕事を任せていただいている立場ですから」

一葉の口調が敬語に戻っていた。

蜜柑もまた、隣に並ぶ琥珀をみて思い出す。

1個しか歳が違わない琥珀も、今や八神家の中では一人前の大人扱い。

住む世界が違うのだと、改めて思った。




「でも、これからを担う五色家の年下の子たちには、

ここで勉強する価値はあるなと思いました。

いろいろな世界を知ったほうがいい。

芸術にも、心の成長にも、必要なことです」

今回のことで、一葉が何か胸に深く刻み込んだものがあるらしかった。




「これからは、アリス同士だけでなく、一般の方々とも手を取り合う必要がありますね」

一葉は、星を思い出して言う。

「アリスがあるとかないとか関係ない、そうですよね」

一葉がつぶやいた言葉に、4人は深く共感していた。

目の前に立ちはだかる、アリスと外界をわける分厚い大きな大きな壁。

蜜柑はかつて、祖父に手紙を届けるため脱走しようとしたことを懐かしく思った。




「うちも、そんな日が来ること願ってる。

それが叶ったら、本当に素敵やと思う!!」

蜜柑の輝いた目をみて、一葉もさらにその想いが増した。




「私たちのような純アリスがそういうことを言っていくことに、きっと意味がありますね」

一葉は、琥珀に言う。

琥珀もまた、深く頷いた。





「5年前から、ここも大きく変わったんだ。

今もまだ変革の途中。

学園は、もっともっと変わっていくと思うよ」




僕らの学園。

僕らの居場所。

僕らの友情を育み、見守ってくれた学び舎。



一葉は、そんなふうに琥珀が深い眼差しを向ける学園をもう一度しっかりと目に焼きつけた。



「お世話になりました。

皆さん、お元気で」



一葉は、笑顔で正門をくぐっていった。

蜜柑たちは、いつまでもいつまでも、手を振り続けた。





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