▽初等部・男女主X


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長い帯状の布は、遠麻に巻き付き、締め付ける。

口も塞がれてしまっては声が出ないのでアリスも使えない。

徐々に締め付けが強くなり、遠麻の顔も苦しそうに歪む。

それでも一葉は、無表情にアリスをとめることをやめなかった。

やめるどころか布は、遠麻をさらにきつく締め上げ、喉元まで巻き上げる。

徐々に呼吸まで苦しくなってくる。

抵抗する体力もつきかけた、その時だった。





「一葉!

やめてください...っ」




ガシャンッ



という音共に、窓を割って入ってきたのは星だった。

隣のベランダづたいに来たとはいえ、その身体能力の高さは予想を超える。

さすがの一葉も驚かずにはいられなかった。

星はすぐに遠麻にかけより、一葉のすきをついてわずかに緩んだ布を引きはがす。



「星...っ」



少しだけ、一葉の声に感情が戻ったような気がした。

遠麻は、ゲホゲホと青い顔をしながら咳き込む。

身体にも、赤い筋のような痕が残っていた。

それが一葉のアリスの強さを示していた。




星は、遠麻に覆いかぶさるようにその長い手を広げ、一葉と対峙した。

その姿は、従者の衣装なのもあって、余計に凛々しく見えた。

「星、危険です...下がって」

遠麻は苦しみながらも、声をふりしぼっていう。

「いやです...っ

下がりませんっ

私は、遠麻さまをお守りすると決めたので」

その瞳の強さに、一葉は一瞬ためらった。

その微妙な変化を、星は見逃さなかった。




「一葉、何があなたをそこまでさせてるのかは私にはわかりません...っ

でも、こんなやり方...間違ってる!!

それだけは言えます...!

だから、友だちとして、私はあなたをとめます...!!」




「星...どいて。

私は、トーマ様に用があるの。

部外者は...出て行って。

星を...傷つけたくない」




かすれた一葉の声。

ふわっと、舞う布。




「部外者なんかじゃない!!

私は、友だちとして、一葉を止めに来ました!

これ以上、苦しむ友だちをみたくない。

一葉、一体どうしたんですか?

本当の一葉は、どこに行ってしまったんですか?

自分の気持ちをしまいこむことの苦しさ...

私にもわかります...」



いい子でいないといけないと、思い込みしまいこんだ心。

でもカラを破った先に見えた景色は、以前と見え方がまるで違ったから...




「一葉...

その素敵なアリスを、こうして誰かを傷つけることに使わないでください。

あなたのアリスは、遠麻さまの命を護ったんですよ...!」



え...

と戸惑う一葉。



「先程の演劇発表で、遠麻さまのお命を影ながら狙う者からの攻撃がありました。

その時、このマントの不思議な力が、無数の弓矢から遠麻さまを護ったのです...!!」

星がみせたマント。

その一部がきらりと光っていた。

星は、偶然なんかではなく、このマントに何か不思議な力が帯びて、矢をはじき返す感覚を感じていた。

遠麻も、このことは知らなかったらしく、驚いていた。




ー私の髪と星の髪を合わせることで、思いはきっと、形になります。




確かにあの時、遠麻さまを守りたいという思いを、紡いでくれたのだ...

アリスに真摯に向き合う一葉を、本当に尊敬しているからこそ、この言葉が本心だと星は信じていた。




「一葉、お願いしますっ

やめてください...っ

きっと後悔します...っ」




一葉の瞳が揺れた、その時だった。

まばゆい銀色の光が部屋中を埋め尽くした____ように感じた。




しかしそれは勘違いで、正確には、割れた窓から勢いよく突っ込んできた大きな獣...

部屋を埋め尽くすほどの大きな大きな銀色の翼をもった獣が、そこにいた。

星は、腰を抜かして驚いていた。

同時に、その獣の恐ろしさとこの世のものとは思えない美しさも感じて、

感情がぐちゃぐちゃだった。

ただ必死に、遠麻を衝撃から守ることで精一杯だった_______







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