▽初等部・男女主X


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「琥珀さまが、負い目を感じることは何ひとつありません。

見方を変えれば、五条リンは救われたともいえる。

新しい自分、新しい生活...

まっさらな地からやり直せる。

闇に落ちることしか選択肢がなく、可哀想で無力な子どもではないのです。

日本中にいる、ありふれた子どもたちの1人になれたのです。

それこそが、彼女の最善の未来ではないでしょうか」



棗と流架の目には、琥珀をみる弥生の瞳が、いつしかみた、小さな震える琥珀をたしなめるそれと重なった。



ー八神家に生まれた以上、八神家の自覚をもって...


ーいやだ...いやだ...痛いのは...嫌だ...


ーあなたは、選ばれた人なのです。

特別な、お方なのです。

ですから....誰よりも早く、世の中を知るのです。

誰よりも早く、大人にならなければならないのです。




愛情とは程遠く、琥珀のためと言いつつ、決してそんなことはない。

琥珀自身を無理やり押さえつけるようなもの。

あの時は、ただそれを見ていることしかできなかった。




日に日に八神家の重圧に押しつぶされそうな琥珀。

でも、僕らにはどうすることもできなくて。

そうしているうちに、琥珀の瞳は変わっていた。

時々、誰と会話しているかわからなくなる。

本当の琥珀はどこへ行ってしまったのだろう。

そう思っていた時、現れたのがリンという存在だった。

リンのおかげで、以前のように無邪気で琥珀らしい目の輝きが戻っていた。

少し強引さはあったものの、

それが、棗や流架にとってはあの、2人の手をとり空へ舞い上がった日のような、琥珀らしさを思い出させた。

リンに希望を感じたのは、琥珀だけじゃなかった。

棗や流架も、琥珀にはリンが必要だと、そう信じてやまなかった。



「琥珀さま...あなたはもしかしかして、佐倉さまが記憶を取り戻し、

学園へ復帰なさったことに、何か希望のようなものを感じていたんじゃありませんか」



言い当てられたのか、琥珀の目が見開かれる。

え...

と、蜜柑はつぶやく。

弥生の瞳がわずかに蜜柑へ動き、また、琥珀に戻る。



「それは間違いです」


ぴしゃりと、言い放つ弥生。

ぐっと、琥珀はつばをのみこんだ。



「琥珀さまは、身分が違うのです。

万が一佐倉さまに起きたような奇跡が起きても、結局、あなたは五条リンを傷つけるだけです。

もう、過去のことから解放されてください。

何が最善か、もうおわかりでしょう。

一般人を護るのが八神家の役目。

その中にはもちろん、五条リンも含みます。

結果、琥珀さまの望みどおりになるのです」




琥珀の口は、固く閉じられていた。

身体も、これまでにないくらい固まっている。

こんな姿、蜜柑は見たことがなかった。

そんな中、前に進み出る影があった。

琥珀ははっとする。




「もう、そうやって琥珀の頭を押さえつけるようなこと、やめてください」



「ルカ...」

琥珀はつぶやく。



「このまま琥珀が、自分の意に反した行動をとり続けたら...

僕たちの知っている琥珀じゃなくなる...

僕たちの友だちを、これ以上傷つけないで...

どうか大切な友だちを、奪わないでください」



あの時、助けてあげられなかった。

ふるえる琥珀を...あんなにも苦しみがあふれだしていたのに...

声にならなくても、全身全霊で叫んでいたのに...

見て見ぬふりをしてしまった。

同じことは繰り返したくない。

友だちを、助けたいから...

僕らが、助けてもらったように...



流架は、琥珀の手を握り、引っ張る。

棗も頷く。



「てめえらの言う通りにこいつが動くと思ったら大間違いだっつうの。

こいつは、一度決めたら曲げない。

そんな覚悟だけじゃない、誰にもひれ伏さない強さももってる。

そうだろ?」

にっと、棗は笑う。



「いくぞ」



そう言った棗の背に続く蜜柑、

そして、琥珀の手を引っ張る流架。




4人の背を、水無月と弥生は見守った。

「水無月、追わなくていいのですか」

弥生がいう。

「問題ない。

琥珀さまはもう、子どもじゃない。

必ず正しい答えを出す」

水無月の言葉に、弥生も表情を変えずに頷くのだった。



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