▽初等部・男女主X


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「お前、アリス学園やこの音校も

トーマのこと、何も知らねーで傍にいるんだな」




この空気、まただ。

棗と遠麻の間に流れる、微妙な空気。

なぜ、棗さんは遠麻さまをそんなふうに...

まるで、遠麻さまが何か悪いことをしているような...

それに、また“トーマ”って名前...

一体、誰...

そう思った時、星ははっとした。

もしかして...




「そいつはお前が思っているようなしおらしい奴じゃねえぞ」

棗が、遠麻を言っているのがわかった。




「相当な生い立ち生き抜いてきただけあって、それなりの根性してる。

でなかったら、女装で歌劇団とか普通やれっかよ」



星は、遠麻の秘密と、その数奇な運命を思い出す。



「俺が見てきたこいつの自分に仇なす奴らへの容赦のなさ...」

八神家のそれと同じだ、

そう言いかけた時だった。

遠麻が笑っていた。

まずい...




「日向君」




気づいた時にはもう遅い。

脳の芯に響くような声。




「ハウス」




遠麻の、目の奥は笑っていない笑み。

それ以降、彼女の顔は見えなくなった。

なぜならば、身体がいうことをきかず、星や遠麻たちに背を向ける形で、勝手に高等部へ引き返し始めたから。



遠麻は満足そうにして、星の肩に手をかけた。

「星、彼らはお帰りです。

行きましょう」

状況をのみこめないながらも、星は遠麻の言う通りにした。

数秒後、背後でものすごい爆発音がしたが、遠麻は気にしていない様子だった。

蜜柑の走り回る慌ただしさと、棗をなだめる悲鳴のような声が響いていた。




「本名のこと、黙っててすみません...」

遠麻は、話し出す。

「実は、エマはここで女性として生きるための名前で

本来の名前は“トーマ”なんです。

“遠麻”は日本用の当て字で...」




トーマはやはり、エマさまのこと...




「日向君とは、アリス学園時代、いろいろあって...

彼、いつもあんな感じなのでお気になさらず」

遠麻は、慣れたように言って、気にしていない様子だった。




「さあ、次の授業に遅れますよ」

ふいにぐいっと顔を近づけた遠麻に、ドキドキする星。

授業前に姉の遠麻に会えたことで、次の授業もまた、がんばれると思った。




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