▽初等部・男女主X


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へとへとになりながらも、無事任務を終えた琥珀。

身体を動かすよりも、脳みそで考えている方がずっとずっと消耗する気がした。

極限状態で集中力を保ち、冷静に指示を下すのは思っているよりもはずかに難しい。

もう、以前のように自由に狩りを楽しむようなやり方はできなかった。

あの頃はただ純粋に獲物を追いかけていれば評価されたし、成果さえ上げれば少しの無茶くらいなら見逃された。

しかし、今は野生の勘という不確かなもので、自由に戦場を走り抜けることなど許されなかった。

あまりにも多くの命を預けられる身として、一つとして判断を間違ってはいけない。

何よりも神経の削られる立場であり、今になって、翡翠の背負わされたもの、そして背負えるだけの器量を知った。




「琥珀様、翡翠様からです。

今すぐつなぎますがよろしいですか?」



撤収中、部下が通信機をもって駆け足でやってきた。

もちろん、どんなに疲れていようが、当主の通信を拒否する理由にはならない。

琥珀は頷いてすぐに受け取った。

ガタガタと身の回りを整理し、移動車に向かいながら急いでイヤフォンを耳に詰め込んだ。




「こちら2番隊隊長、琥珀」



「やぁ、琥珀、お疲れ様」

こっちの気も知らずに相変わらず、穏やかな声。

戦場と通信している自覚はあるのだろうか。

しかし、相手も当主なだけはある。




「だいぶ疲れているみたいだね」



わずかに漏れる息とさっきの一言だけで、そこまで察する人はいない。

きっと、じゃりを踏む足音なんかも拾ってるに違いない。

「まあね、最近任務が続いていたから否定はしない」

誰かさんの任務割り振りに文句がある、なんて言わないようにぐっとこらえた。

くすくすと漏れる、笑ってる様子の翡翠の声から、こちらの考えてることはお見通しのようだった。

それにもまた、イラっとするが、平常心平常心と言い聞かせる。



「琥珀もだいぶ大人になったね」



すべて見透かされるのがきもちわるい。



「で、なに?

また任務なんて言わないよね?

わるいけど、明日と明後日は休みもらってるし、うちの隊も休ませないと」



話を進めようと、一気に言った。

「さすがに、2番隊には休んでもらわないと。

明日も明後日も1番隊に待機令出してるから問題ないよ」

「じゃあ...」

「ひとつ聞きたいんだけど、明日は学園に行くつもり?」

移動車のデジタル時計は、03:42を示していた。

もう、日付は変わっていた。

授業が始まるのは5時間後だ。




「午前はさすがに休もうと思ってたけど...」



なんだか、嫌な予感がした。

ただの勘にすぎないのだけど...



「急に決まったことだし、2番隊の任務が立て込んでたから伝えそびれてしまったんだけど...」


もったいぶるなよ、と琥珀はいう。



「明日、五色家の当主の妹さんが学園を訪問するらしいんだ」



五色家...当主の妹...

それですぐにぴんときた。



「琥珀はよく知ってるでしょ?」



「まあ、よく知ってるというか、僕の着物を任せてるけど...」

大事な日...最近で言うと翡翠の結納の日の着物など、それらは五色家の長女、五色一葉に一任していた。

一葉とは、その着物をどんなものにするかという打ち合わせで少し話すくらい。

打ち合わせの内容も、基本的に琥珀はすべて任せるよと言っているだけだ。

一葉の職人気質な情を汲み、毎回打ち合わせには付き合っているが、

正直、着物に関してはこれほどまでにない信頼を置いているのだから自由にやってくれていいのに、と思っていた。

一葉の織る着物は、お世辞抜きに一級品で、

今までに来たどんな着物よりも、着心地から柄まですべてにおいて、自分に合っていると感じられた。




「一葉さんが、学園の案内役にぜひと、琥珀を指名したんだ」



「え...」



思わず声が漏れてしまう。




「しばらく滞在するみたいだから、琥珀に任せたいんだけど」



ここまで話が決まっているということは、こちらに拒否権はないに等しい。

嫌なことはないが、何か胸騒ぎがしてならなかった。



「オーケー。

時間は?」



「10時に正門前で」



「わかった。

そこに迎えに行くと伝えて。

あと、変更があったら端末に入れといて。

僕はもう寝る」



「ありがとう、じゃあ、よろしくね」




翡翠との通信を切ったあと、一葉のことを考える間もなく、琥珀は泥のように眠りに落ちた。





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