▽初等部・男女主X
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「なぁ、棗、うちの制服どう?
琥珀とるかぴょんは似合うって言ってくれたのに...」
なかなか棗がその言葉を言ってくれなくて、蜜柑の方もむきになっていた。
棗も棗で素直じゃなく、「別に」「普通」などと、そっぽをむいて言うのだった。
しかしずっと棗と一緒にいた流架と琥珀からすれば、明らかに棗が照れているのがわかって、にやにやがとまらないのだった。
それが棗の視線の端にもちらちらうつるのだから、棗はものすごくうっとおしがっていた。
琥珀は誰よりも楽しそうだった。
しかし蜜柑は、なかなか棗がこちらをちゃんと見ようともしないので、頬を膨らませていた。
「もう、ネクタイもちゃんとせなあかんねんで。
先生に怒られるやろ」
そして、棗も予期せぬ動きをする蜜柑。
ずいっと棗の前に出て、着崩したネクタイに手をかける。
「パーマにやり方教えてもらってんから...
うちかて...」
蜜柑は、棗のネクタイを整えることに集中するあまり、その近さに気づいていなかった。
棗はいきなりのことに、驚いているというのに...
少し棗が動揺したのを、琥珀は見過ごさなかった。
にやりと笑う琥珀。
作戦成功だ。
思ったよりもうまく行って、これは当分のネタにも困らないだろうなと考えていた。
それがなぜか伝わったのか、棗は睨み、負のオーラを放っていた。
やばい、バレたか...
と琥珀は思うも、棗は蜜柑にネクタイをつかまれ動けないようだった。
先程、蜜柑に「大丈夫」と声をかけ安心させたときついでに言った一言。
「棗のネクタイがゆるんでるから直してあげたら?」
この言葉が自分の予想をはるかにこえ面白いものをみせてくれたのだから、琥珀は大満足だった。
「あれ、どうやったっけ...
ちょっと棗動かんといて...」
琥珀の様子もそうだが、蜜柑が意外とネクタイに苦戦するものだから、棗もしびれを切らしたらしい。
ぱしっと、棗はネクタイに触れる蜜柑の手をつかむ。
えっと、蜜柑が顔をあげたとき、その顔の近さに気づいて驚いた。
みるみるうちに蜜柑の顔が赤くなる。
棗の呆れたような見下ろす目線。
無自覚でやっていたのかと、盛大なため息を漏らす。
そして短く「来い」と言って、その手を掴んだまま___手を繋ぐような形で、流架と琥珀に背を向けどこかへ行ってしまった。
「えっ、ちょ、棗...どこ行くん?」
蜜柑の戸惑いの声が小さくなっていくその背中に向け、流架は
「授業にはおくれないようにねー」
と叫んでいた。
そして取り残された2人。
「あーあ、絶対怒ってるよ」
流架は言うが、琥珀はまったく反省していない。
それどころか、新しいおもちゃを見つけた子どものような顔をしていた。
流架はまた、ため息をつくのだった。
年々激しさをます大人げない2人の喧嘩をとめる気苦労なんて、誰にもわかってもらえないだろうなと思う。
それと同時にまた、蜜柑と学生生活を送れる喜び、あの笑顔が戻ってきたことが、心底嬉しかった。
よかったね、棗...
少し切ない心と、2人の幸せを願う気持ちが混ざり合った。
でも、わるい感情じゃない。
とても、気分はよかった____
ちなみに、棗はその日1日中、しっかりとネクタイを結んでいた。
いつも着崩している姿を注意していた教師も、驚くのだった____
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