▽初等部・男女主V


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体育祭も終わり、季節は春から夏へ。

制服も衣替え。

涼し気な装いと今日も元気な初等部生。

あれから、蜜柑とリンのあらぬ誤解はすっかり解け、クラスはすべて元通り...

いや、一部元通り。

それも、棗がクラスでやや孤立している状況が続いていた。

すすんで一人でいる、という表現が正しいのかもしれないけれど。






今の棗をみてると、ウチはかなしくなるより、なぜか不安になる。

まるで一人どこか、いなくなってしまう準備をしてるみたいな...

誰の心にも自分のかけらを残さないようにしてるかのような。

棗の行動1つ1つにそんな決意を感じて、目を離せなくなる。

...不安になる。







そんな蜜柑をみつめるリン。

あの体育祭以来、一層蜜柑と月から目が離せなくなった。

蜜柑のあの時のアリス...

そして今は、なぜかおとなしい月...

蜜柑とその周囲はもとに戻りつつあるのに、なんだろう、この不安は...

何かとても、嫌な予感がする。






「あれ?

ルリカちゃんどこだろー。

さっきまでいたのになあ。

セントラルタウン行って、ナル先生のお見舞い買いにいこうって誘おうと思ったのに...」







セントラルタウン近くの住宅街。

瑠璃は、険しい表情で足を速めていた。

そして、1つの家の前で立ち止まり、躊躇することなくそのドアをあけ、家主の了承も得ずにずかずかと奥へ進んでいく。




バンっ




勢いよくドアを開ければ、驚いた様子の彼。

しかしすぐにおどけた表情をみせる。

その顔に、腹が立つ。

そんな余裕なんか、ないくせに。





「やあ、誰かと思ったら君か。

感心しない登場の仕方だよ、瑠璃」

困ったような表情を浮かべる彼の様子に、この怒りのような感情は収まらない。

「お見舞いに来てくれたのは嬉しいんだけど、

君がそんな恰好で学園あるいてていいのー?」

瑠璃は初等部の姿から、普通の姿に戻っていたのだが、鳴海の声はもう耳に入ってこない。

ずんずんと部屋の中に入り、そのはだけた服をばっとひきはがす。

予想だにしなかった行動に、一瞬焦りの色をみせるも、鳴海はすぐに隠す。

「え...っち!

ったくそんな趣味あったのー?」

相変わらずの表情と、今見た痣が想像以上に彼を蝕んでいたことのショックで、逆に冷静さを取り戻した。






「あんた、死ぬよ」





静かな言葉が、確かな重量をもって部屋に響いた。

数秒の沈黙ののち、彼はちっとも絶望的な顔をせず、むしろどこかふっきれたような顔をしていった。

「わかってる。

君に言われなくても、僕の体だ。

僕が一番わかってるよ」

そのまっすぐな瞳でいわれれば、返す言葉もなくなる。

今こうして向けられている目は、私なんかみていなくて。

ずっと先の、蜜柑と、柚香に向けられていることを、瑠璃は悟っていた。

何がわかってる、だ...

私の気持ちは、ちっともわかってないくせに...

でも、それは当然のこと。

あの時からちっとも変っていない瞳。

その瞳が映し、あんたの心が執着するのは、あの人だけ。

ずっとずっと、誰よりも、あんたのことを目で追ってきたのだからわかる。

あんたが苦しく愛しい気持ちでいるのと同じように、私だって、届かない、届くことのない想いを抱えてる。

鳴海の気持ちが同じようにわかってしまうから、もう私は、責める気にもなれない。







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