▽初等部・男女主U
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穴を通ってやっとのことで逃げ延びたこの山中。
石森を助けたのはいいが、彼は学園に自白剤を使われ大分体力が落ちていた。
今はそんな彼を介抱するため、逃げる足をいったん止めていた。
「アズ、石森さんの具合はどう?」
心配そうに尋ねる声。
「大分良くはなったけど、熱がまだ引かない」
アズはハンカチで、石森の額の汗を拭いながら答える。
「かなり副作用のキツイ自白剤のようだから、今私が持ってる薬じゃ手に負えないわ」
石森と梓のまわりには、複数のカラになった薬の袋が散らばっている。
設備が整っていれば、この程度のことはすぐに治療できるのだが、ここは何せ人里離れた山の中。
いくら以前いた組織で医療をかじっていたとしても、限界を感じていた。
「助けてもらったうえにすまない....俺のせいでこんな足止めを.....」
石森が息を切らしながら言う。
「これくらい問題ないわ。
もう少しでアジトにつくと柚香が言っていた。
それまでの辛抱よ」
今まで黙っていた志貴がふと何もない方向を見つめる。
「志貴?」
柚香が呼びかける。
「....山の中に、追っ手らしき数人の気配がする」
志貴はアリスで探りながら静かに言い、梓にも目配せした。
「え...」
柚香が驚く中、アリスを発動させた。
すぐに梓の顔が驚きへと変わる。
「学園のか?」
「まさか....穴≠通って?」
石森と柚香が立て続けに疑問を口にする。
「ええ。
.....リンの......リンの気配を感じる....」
梓は静かに言う。
「え...?リンって....紅蛇か?!」
石森が顔を強張らせる。
早すぎる追跡に、動揺していた。
「間違いない、これは...リンの気配.....それと、その他数名...これも子どもの気配......」
梓はもっと探ろうとするが、この山≠ニあってそう簡単にはいかず、断念する。
「ただの追手という様子じゃなさそうだな」
志貴が静かに言った。
「アズ、紅蛇は...敵なの?」
柚香の問いに、梓は唇を噛み締める。
「わからない...
けど、リンがもし、学園がよこした使いなら私たちは危険だわ。
ずっと一緒にいたからわかる。
あの子の純粋無垢なやさしさ。
そして同じくらいに、敵にしたら最後の、あの恐ろしさと冷徹さ...
先を急ぎましょう___」
梓の一言に、皆頷く。
「すぐには追ってこないだろう。
幸か不幸か、ここはあの人のアジトの近くだ」
志貴はもうすぐそこの蒸気のみえる山をみて言った。
リン、無事でいて...
そして、もう一度会えたなら次はちゃんと偽らずに、あなたのその瞳に映りたい....
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