▼高等部・男主T


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「翼ーっ!!」



―バタンっ!



勢いよく扉が開く。

急な出来事と仁王立ちの美咲にぎょっとする。

「ったく、ノックくらいしろよなー」

後夜祭が終わり、部屋に戻って一息ついたところだった。

「いいから早く!」

と、美咲は電話の子機を手渡す。

もしかして?と、美咲にそんな視線を送ると、美咲は頷く。

「詩先輩から!」

美咲から、寮共有の電話の子機を受け取った。






『よー翼ぁ、美咲ちゃん、元気だな』

受話器から聞こえる、くくくっという笑い声。

「詩、帰ってきてんの!?」

嬉しく思いながらも、驚きのほうが大きい。
 
『まーな、でも明日また行かなきゃなんね』

「え....明日って....」

嬉しさもつかの間、翼の声のトーンが落ちる。

『黙んなよ辛気くせえ』

こちらの気持ちを知ってか知らずか、相変わらずの陽気な口調。

『後夜祭には間に合うかと思ったんだけどなー。この通り』

受話器越しに、詩の苦笑がうかがえる。

『どうだった?アリス祭』

ふと、詩がたずねる。

「あ...!!特力、特別賞もらったんだぜ!」

『ぉお!すげーじゃん!あの特力が!!』

自分のことのように喜んでくれているのがわかる。

「“あの”ってなんだよ!俺らもやればできるんだよ。

まあ、蜜柑のおかげが大きいけど」

『蜜柑...』

詩が呟く。

「あ、新入りの初等部のこでさ、」

『棗のパートナーか!』

翼の言葉を遮り、思い出したように詩が言った。

「そうだけど、もう知ってるんだ?」

『まーなっ』

詩は得意げな様子だ。

『なおさら行きたかったなーアリス祭。その蜜柑ちゃんってこがいるならさ』

詩は蜜柑に興味をもっているようだ。

何かと情報を持っている詩の耳に、レオが絡んだ誘拐事件の話が入っていないわけはない。

翼はそう、ひとり納得する。

「蜜柑なら特力くればいつでも会えるよ。

それで、いつ帰ってこれるんだよ詩」

翼が一番ききたかったことだ。

『んーそれがまだわかんないんだよなあ...

て、あっ!わりぃ、そろそろ切らなきゃなんね』

詩は急に声を落とし、申し訳なさそうに言う。

「おぅ、わかった」

『美咲ちゃんと“なかよく”な!あと、要にもよろしく!んじゃ』

ブチ、ツ――…ツ――…ツ――…




「ばーか....」

空しく響くコールに向かって、呟く翼だった。





「詩先輩、何だって?」

美咲がたずねる。

「明日には学園でるってさ」

翼は美咲に子機を返しながら答える。

「じゃあ、顔見れないなー」

美咲が寂しそうに言う。

「てか詩、いつもどっから電話かけてきてんだろな」

翼はぽつりと毎度の疑問をつぶやく。

詩は学園に帰ってくると、たまに中等部の電話に、教師を装って電話をかけてくる。

もちろん、ばれたらまずいことになるのだが、そこらへん詩はうまい。

教師の手をこまねくほどの、根っからの悪戯好き。悪だくみは得意中の得意の彼だから...

それはともかく、詩の声を聞けて安心する、翼と美咲だった_____








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