▽初等部・男女主T
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鳴海の去った教室はいまだ混乱状態。
蜜柑やリン、そして混乱の原因のひとつともいえる琥珀のもとにみんな集まっていた。
「まあでも、ちょうどよかったんじゃないかな。
能力別クラスが一緒のほうが、何かと都合がいい。
僕と蜜柑は特別能力系。
日向とリンだって、同じだし」
え、今なんて...?
クラス中の動きがぴたりと止まった。
ただひとり、能力別クラスを知らない蜜柑だけが取り残されていた。
「棗君と同じって、まさか、危険能力系?」
人が、離れていくのが肌で分かった。
この視線には慣れている。
何度もみてきた、恐れの顔だ。
それでも、恐る恐る聞く、正田スミレ。
「五条さん、あなたのアリスって、なんなの...?」
リンは、琥珀が余計なことを言って....などとは微塵も思っていなかった。
遅かれ早かれ知られること。
「私のアリスは....
結界と、具現化のアリス」
リンは静かに言った。
「アリス、2つ?」
「結界はわかるけど、もうひとつって」
聞きなれない言葉に皆首をひねる。
「簡単に言うと、幻覚のようなもので、頭で作り出したイメージを実物として発現させる。
幻覚と違うのは、そのものに、“実体”があるということ」
いまいちぴんとこない能力。
しかしそれが逆によかったかもしれない。
子どもは、その能力の真の危険性まで発想をとばすことができない。
それは、“具現化”という言葉が、炎や氷といった見た目でわかりやすいものでもなく、呪いなどといった想像しやすい、わかりやすい恐怖ではないからだ。
しかし、少し物事を覚えた年齢にはわかってくるだろう。
ましてや、力の持つ大人からすれば、それは是が非でも手に入れたい代物。
この具現化のアリスこそ、いわば“なんでもあり”だということに。
「琥珀くんは、リンちゃんのこと知っていたの?」
唐突に誰かがきいた。
「ああ。
リンとは、たまに外の仕事で会っていたんだ」
琥珀のいう外の仕事は、八神家の担う任務全般を指す。
アリスとして生きていれば、知らない人はいない八神家。
それは、具現化という言葉を知らない子どもでも、八神家が大きな力を持つ名家ということは当然のように知っていた。
そして、学園から受ける八神家の特別待遇も、当然として受け入れている。
琥珀がたまに仕事で学園を留守にすることも、明らかに危険能力系なのにそうじゃないことも、星階級がスペシャルなことも、なぜか学園の表裏事情について知っていることも、すべて、“八神家だから”という理由で皆、納得するのだ。
それくらいに特別な存在がリンについて知っていたことも、特段驚くことではなかった。
「リンは能力を制御するのが苦手でね。
学園にくるのは先送りされてたんだ。
今はほとんど制御できてるけど、万が一、念のために、危力系なんだよね?」
シナリオ通りの完璧な文言と、反論を許さぬ琥珀の瞳に、八神家を感じた。
「うん。
琥珀の言う通り」
「リンの頭の中全部具現化されたら困っちゃうもんね。
お菓子の家とかふっかふかのベッドだったら嬉しいけど」
最後にそう、冗談を付け加えることで、場は和んでいた。
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