▽初等部・男女主T

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リンが学園に来て数時間後、夜が明けた。

学園の生徒たちが教室に向かうころ、スーツをきっちり着こなした男女2人が学園正門前に立っていた。

男は身長が高く細身で色白。

メガネをしていてその奥の細い瞳は、風が吹こうが目の前を虫が飛びすぎようが動じなかった。

女の方は背が低くこちらも細身で、藍色の長い髪を後ろできっちり束ねていた。

その顔もずっと、無表情だった。







「時間だな」

男が懐中時計を確認し言った。

「ええ」

女はそう短く答えると、今まで何も映していないかのように動かなかった瞳を、学園の路地へと向けた。

ちょうどその時、一台の黒い高級車が角を曲がりこちらへ向かって来た。







静かに目の前にとまる車。

男は一歩前に出て、後部座席のドアを開け深々と頭を下げた。

女もその場で深々と頭を下げた。




「おかえりなさいませ、琥珀様」

男が言った。

「お仕事、お疲れ様です」

女が続けた。





そう言われ、車内から出てきたのは初等部の制服を着た少年。

銀髪と青いきれいな瞳が映える白い肌に、整った顔立ち。

その肩には、白いフクロウがとまっていた。

そこが定位置なのか、なんら違和感も感じない。

少年は、車から降りるとふっと笑った。






「1週間しか離れてないのになんだか久しぶりに感じるなー。

水無月≠熈弥生≠焉v






「そうですね」

弥生と呼ばれた女は、短く答えながら先ほど琥珀と呼んだ少年を学園内へとうながした。

そんな中でも周囲の警戒は怠らない。

その後ろを行くのは、車から降ろした荷物を運ぶ、水無月と呼ばれた男。

2人の緊張感を知ってか知らずか、琥珀はつぶやく。






「あーあ、学園か。

だるいなー....」






空を仰ぎながら溜息を吐き出すのと同時に、少年の口からそんな言葉が漏れた。






「琥珀様、そのような言葉遣いは_」




「『八神家の人間にはふさわしくない』だろ?

わかってるって」





すかさず弥生が言った言葉をさえぎる琥珀。






弥生は静かに頷き、また歩みを進めた。










「ったく...たりー.....」

今度は聞こえないように呟いたつもりだったが、





「なにか言いましたか?琥珀様」

地獄耳のこの女は、不気味なくらい一定の声色で尋ねてくる。






「あ?...

っとー、なにも言ってないけど、なにか聞こえた?」

そうやってごまかせば、

「ならばいいのですが....」

と弥生は前を向いた。







「それにしても、最近つまんないな...」

そういった琥珀が、突然、何かに反応して立ち止まる。

水無月も弥生も、その動作に反応し、止まる。

「どうかされましたか?

琥珀様」

すかさず水無月が問う。

さっきの気の抜きようとは明らかに違う琥珀の様子を感じ取っていた。

「...血の匂いがする」

弥生がけげんな顔をする。

「こいつと、一度会ったことがある」

水無月と弥生が顔を見合わせる。

それは、八獣使いである琥珀の能力のひとつ“犬の嗅覚”の精度の高さへの驚きと、申し伝える事項が思い当たってのことだった。

「琥珀様、私どもも今朝知ったことですが、新入生のことで...」

水無月が口をひらく。

「ああ、あの“佐倉蜜柑”のことだろ?

それなら僕の耳にも入ってる。

“無効化”なんだってね。

希少で縁起のわるい能力って姉さんが言ってたよ....」

琥珀が学園にいなかった間の出来事は情報として入ってきていた。

「いえ、それもそうなのですが、実はもうひとり緊急に決まった新入生がいて。

......それが、あの“紅蛇”なんです」

その一言で琥珀の表情は一変し、笑みを浮かべる。

「水無月、本当なのか、それは。

ははは....前言撤回だよ。

面白くなりそうじゃん」

久しぶりに見る琥珀の楽しそうな顔に、水無月と弥生は複雑な顔をするしかなかった。










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