▽初等部・男女主X


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蜜柑よりもずっとずっと先に、琥珀はその瞳に、彼女を映していた。

他の生徒なんて、目に入らない。

教室に入り、最初からその目に映ったのは、リン、ただ一人だった。




自分の興奮を抑え、平静を装うのに必死だった。

棗の睨むような視線を横目に感じなければ、すぐにそのもとに駆けよっていたかもしれない。

そう思うと、今回の棗の役割は、かなり自分の抑止力になるな、と思い直し、

また翡翠の思惑通りかと考えさせられた。




変わらず、相変わらず美しい。

また、こうしてこの瞳に君を映すことができるなんて...

それだけでもう、感極まっていた。

一度は手放したその存在が、今、目の前に...

君は、今...

その目に何を映しているんだろう。

君の目に映る世界はどんなだろう...

僕も、同じものがみたかった。

だから来た。

かつて同じ世界をみてきたその目に、今、映すものは...





「佐倉蜜柑です。よろしくお願いします」

明るく、蜜柑らしいあいさつ。

「僕は八代(ヤシロ)琥珀、みんな、仲良くしてね」

さわやかに笑う彼は、もうクラス中の女子を魅了していた。

八神の名はアリスでなくとも有名すぎるため、ここでは使わないらしい。

「日向棗だ」

相変わらず、愛想のない棗。

蜜柑と琥珀は、それが彼らしいと密かに目を合わせ笑うのだった。




「じゃあ席は...」

先生が言うのを待たずに、琥珀が遮った。

後ろに並ぶ、3つの空席。

まるで当たり前かのように琥珀はいう。

「僕、あそこがいいです」




やはり、というか...

そうだろうな、というか...

蜜柑と棗はため息をつく。

琥珀が指さした席は、リンの隣だった。




えっと、戸惑う教師。

日本の防衛を担う名家、八神家の子息とは知らない担任の先生としては、しごく当たり前の反応。

しかし琥珀としても、これくらいのわがままは今まで誰も気に留めることなく、“八神家だから”と許されてきた身。

先生の反応の意味がよくわかっていなかった。

棗は、はぁっとため息をつく。




「じゃ、俺はあそこで」




棗は琥珀の席からひとつ飛ばした席を指さした。

そして、蜜柑に目配せする。

ああ、と意味がわかり、

「き、奇遇やね...

ウチはそこがいいと思ってた」

と、棗と琥珀の間の席を示して言うのだった。

棗と琥珀とリンと、初めて会った時のことを思い出していた。

あの時も急に、パートナーが決まったんだっけ...





「あ、ああ、そうなの?

3人がよければそれでいいんだ。

じゃあ、みんな、3人と仲良くね」

少しひっかかりながらも、1限目に遅れないようにー、と言い残し、担任は出て行くのだった。




琥珀はにこにこ、満足そうだった。

このまま、何事もなくいきますように...

そう願った蜜柑の心は、すぐに打ち捨てられるとも知らずに....




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