▽初等部・男女主X


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森の中、血がぽたぽたと続いていた。

大きな黒い巨体が、危なっかしく、ゆらゆらゆれながら森の奥へ奥へ、行く宛もなく歩いていた。





「アルマ様...

ひどいお怪我を...っ」

獣の口に腕をはさまれ、抜け出せない付き人。

征伐隊の攻撃を受けながらも、決してその口から離さなかった。

「どうか手を離してください。

このままでは命にかかわります」

獣の出血が、どんどん増えていた。

息も荒い。

「もう、あの娘のもとに向かったりしませんから...

手当てをさせてください」

付き人は泣きそうな声で、そう言った。

そこでやっと、アルマはその場にくずおれた。

付き人を離し、うずくまる。

改めて見ても、全身ひどいケガだった。




「...なんで、なんで俺に黙ってこんなマネをした」

変態が解けかかり、アルマの弱弱しい声がきこえた。

付き人は、黙ってアルマの手当てにとりかかった。

「俺を兄上の命に背く裏切り者と思うなら、ここで俺を打ち捨てるのが妥当だろ...

なんで...」

ぐるる...

とうなり声とともに、アルマは言った。

付き人は、アルマの傷口に優しく触れた。

「...僭越ながら....

アルマさまをお助けしたかったんです」

その言葉に、驚くように、獣はわずかに首をもちあげた。



「だってこのままでは、アルマ様があまりにもお可哀想で...」



うなだれる、付き人。

何を言ってるんだろう...

薄れかけた意識の中、アルマは考えた。

でもわからなくて、必死に付き人のその先の言葉をきいた。



「アルマ様が、情に流されて任務を遂行できないのは目に見えていたから...

絶対に、トーマ様暗殺を実行できないと思っていたから...」

付き人の言葉が図星をついて、胸に刺さった。

「そしたらアルマ様は、また祖国で、前以上に厄介者として

頼りの兄上様にも見放され、強制送還後は一生、

人扱いされない日陰者生活が待っているから」

そうだ...

こいつは幼いころからずっと、俺についてくれていたっけ。

それが当たり前すぎて、こんなにも考えてくれていることに気づかなかった...

「でも、あなたのような人にこれ以上、酷な任務を強要するなんてできない。

だったら私たちの手で、何とかして差し上げたかったのです」

この可哀想な王子を救ってあげたかった。

ただ、それだけだったのに...

「それが、このようなことになってしまい...

学園での居場所まで失うはめに...

申し訳ありません」

肩を落とし、頭を下げる付き人。

学園にきたときの、アルマの言葉と、初めてみるその瞳の輝きを思い出していた。



ーアリス学園、いいな。

変な奴らがいっぱいいて。

八神みたいなのがいたらそりゃ、俺はかすむよな。

俺みたいなやつでも、ここだとちょっと不思議な体質って程度で、普通の人間としていられる。

普通ってすげえよなあ〜

俺ずっとここにいたいな。



ー任務無事遂行すれば、ご褒美として卒業までいれますよ。



ーまあな...




「あなたの戻れる場所を、受け入れてくれる場所を、

作って差し上げたかった...

なのにすべてを...」

いつもそばにいてくれた人の、そんな思いが痛いほど、傷口から染みてくるようだった。

アルマはその大きな体を、小さく丸めるようにうずくまる。



ー化け犬だ!!

ー殺傷もやむをえない!

ー捕まえろ...!!



また、あの目だ。

祖国で嫌というほど味わった、嫌煙し、蔑視する目。

みんな、敵だ___




「...いいよ別に。

俺がちょっと、勘違いして夢見てただけだ。

ここなら、普通の人間として受け入れられるって...そんなはずないのにな」




ーアルマさんは素敵な人です

ーアルマさんに出会えてよかった




なんで...

なんで...

こんな時まで、その言葉を、あいつを...

思い出してしまうんだろう...

余計に、余計に惨めになるじゃないか...




その時、近くで人の声と威嚇する銃声がきこえた。

もうすぐそこに、追手がきていた。

付き人は立ち上がる。

「私が話をつけてきます。

アルマ様はどうか、身を隠していてください___」





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