▽初等部・男女主X


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「トーマ様...お目覚めですか?」




埃っぽい、暗い部屋。

見慣れない、倉庫のような場所で目を覚ました。

口を塞がれ、声を出すこともできず、手足も拘束され、一切の自由を奪われていた。

横に、付き人も同じように横たわる。

まだ意識もはっきりしない中、記憶を必死に手繰り寄せた。




今日は...そう...アリス祭の音校生によるイベント...

男装コンテストの最終審査の日...

星との舞台を楽しみに、朝、付き人共に部屋を出たところで、記憶はなくなっていた。




「乱暴狼藉、お許しを...いつものことですが」

その言葉と数人の人影に、自分の置かれた状況を理解する。

目の前に立つのは、たしか、アルマの付き人だ...

やはり...

しかし、その中に肝心な姿が見つからない。

それにこのやり方...兄さんらしくない...

そんな心情を読み取ってか、アルマの付き人は続けた。

「アルマさまは今回も暗殺失敗に終わると思いまして

僭越ながら、我々で先手を打たせていただきました」

それじゃあ、これは...

アルマの知らない、部下たちの独断。

「兄君からの、最後の和議提案です」

静かな瞳で、アルマの付き人は言った。

「“王位継承の証”(アリスストーンのネックレス)をお渡しください。

速やかに譲渡されれば命まではとらぬとのこと」

カタッ

と何やら箱を取り出す。

その中から出てきた注射器に、さすがの遠麻も焦りは隠せない。

自白剤...いや、毒か何かの類だろう...

兄は、本気で命をとりに...

「もし抵抗し、制限時間内に証の所在を明らかにされないのなら

その時はご覚悟を...」

手にもつ鋭利な注射の針が、鈍く光った___






その頃コンテスト会場では、時間になっても姿を現さない遠麻に、皆心配しているところだった。

星もまた、漠然とした不安を抱えていたが、そこへアルマが現れた。

犬の姿ではない、人間の姿。

アルマは息を切らしていた。

そして言いづらそうに、でも心を決めたように一度つばを飲み込み、口をひらく。

「俺が連れてくる...トーマをここに」

え...と戸惑う星。

「さっき、トーマの居場所にあたりつけてきた。

...俺の部下たちが勝手に動いてこうなったんだと思う」

「アルマさん...っ

一体どういうことですか...?!」

星は掴みかかる勢いで、アルマにつめよる。

遠麻の身に何かただならぬことが起きているのなら、それは...っ

そんな思いから、コンテストを棄権し、一緒に探すと申し出るもすぐにアルマは却下した。

「お前のいるべき場所で全力を出せ」

そう言って、アルマは星の背中を押す。

遠麻と約束した、託された思いを胸に...

星は思い出し、ネックレスをぎゅっと握って、一人で舞台に立つ覚悟を決めるのだった。




「王位継承の証...?」

鳴海に頼まれ、アルマのあとを追いながら、棗は聞き返す。

アルマは何か、気になっていることがあるようだった。

「星がもってたネックレスがか?」

ああ、とアルマは頷く。

そして、そのネックレスについて語る。

「俺の国では、あの証を正当に継承した者しか王位を継げないんだ。

だからトーマは、国を追われてもなお、

証を手に入れたい兄上に命を狙われ続けた。

でも、あのアリスストーンにはネックレスの正当な持ち主を守る力があって、

その庇護でトーマはずっと、絶体絶命の危機を何度も奇跡的にかわして今まで生き延びてきた」

「...トーマのやつ、何でそんな厄介なもの

何も知らない星なんかに」

棗は怪訝な顔をする。

しかしアルマは、「...それだけ大事なんだろ。星のこと」と噛み締めるように言った。



「“死の王子”」



アルマはつぶやく。

え...と棗。



「お前もあいつがそう呼ばれてた経緯知ってんだろ。

アリスストーンの力は別に万能ってわけじゃない。

継承者は、石の庇護を受けることで

時に自分に降りかかる災難が周りの者に肩代わりされる」



ー死の王子のそばに居続ければ災難が降りかかる...



タチの悪い噂を流すものがいるとは思ったが、こんな裏打ちするような事実があったなんて...



「持ち主を大事に思う者であればあるほど、その影響を受けやすい。

どんなに嫌でも、継承者は立場上、それを受け入れなければいけない。

だから愛する者を護るため、歴代の王は一番大事な妃に証を渡してきた」



アルマは、自分で言うのがいやだったが、それがすべてだったから...

それくらいに、遠麻の気持ちがわかってしまったから...



「トーマは星に対して、そういう覚悟だってことだろ」



棗も、アルマの言いたいことを理解した。

「もしも今、トーマがもう証を持っていないと知られたら

その時はトーマの命の保証はない。

それどころか、もしも証の持ち主が星だとわかれば...」



そこまできいて、棗は舌打ちした。

そして、昨夜の琥珀の言葉を思い出していた。




ー棗、トーマのこと頼むな



ーま、アルマのあの様子じゃ、心配いらないだろうけどな




琥珀のその言葉は当たっていた。

しかし、今は別問題が出てきている。

そんな中、自分はこのアルマとともに、トーマを守りきることができるだろうか...

任務で琥珀が学園不在の中、やり切らなければならない___





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