▽初等部・男女主X


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「星、あの時はありがとうございました」




出会ったときと同じ、整ったすきのない所作。

丁寧に頭を下げるその姿に、星は安堵した。

よかった、一葉だ...

目の前にいるのは、本当の一葉。




顔を上げたその表情を見て、ふと笑顔になる。

来た時よりもずっと、どこかすっきりとした顔をしていた。




あれからあっという間に日が経って、いつのまにか一葉の帰る日になっていた。

京都に戻る前に、最後に星に会いに一葉は音校へ来ていた。

2人はそろって歩きながら会話する。




「遠麻さまには先ほどごあいさつしてきました。

数々の非礼をお詫びしに...」

バツがわるそうに一葉はいう。

あの時の自分はどうかしていた、五色家として恥ずかしい行為だったと、

かなり反省している様子がうかがえた。

「遠麻さまは、本当にあたたかいお方ですね。

こんな私にも情けをかけてくれました。

身に余るようなやさしい言葉もかけてくれて...

星が遠麻さまを好きになる理由もわかります。

危険を顧みず、自分の身を挺してでも守りたいと思うほど...」




あの時、非アリスにも関わらず、五色のアリスに立ち向かったあの姿は、勇敢だった。

決して、誰でもマネできることじゃない。



「星のこと、応援していますよ」



立ち止まって、一葉は星の手をとって言った。

曇りない、澄み切った瞳だった。

星は、遠麻を好きだという気持ちが一葉にすべて漏れてしまっていると思うと、恥ずかしくなり顔を赤らめる。

「一葉に応援していただけるなんて、こ、心強いです」

満足そうに、一葉は頷いた。

友だちとして、恋を応援する喜びも、この学園に来なきゃわからなかったこと。




「最初は、この学園に来たことを後悔しました。

ますます琥珀さまを好きになってしまうし、抑えていた感情も歯止めがきかなくなってしまった。

初めて、あきらめなきゃいけない苦しみを知ったし、嫌というほど恋のつらさも味わった...

でも、振り返ったら悪いことばかりじゃなかったなって...」

一葉は、星を見つめてほほ笑む。

「星と友だちになれたから、ここへ来てよかった。

アリスのすばらしさ、アリスを持たぬ星の勇敢さ、アリス歌劇の感動にも触れることができました...

きっとこの短い1週間が、これからの私の生きる道に大きな影響を与えると思います」

一葉はそう確信して、言った。




「人として、何か言葉にできないような...

大切なことを学べた気がするんです」



晴れ晴れとした一葉の顔に、星は安堵した。

「ぜひ、またいらしてください。

私もまた、一葉に会いたいです。

成長した姿を、みてほしいです」

星の目も、きらきらと輝いていた。

「それ、いいですね!

一度、遠麻さまと星の舞台をみてみたいです。

音校内の演劇発表も、みれなかったので...」

丁度あの時、舞台をみる心の余裕が一葉にはなかった。

「でもきっと、素敵なんでしょうね。

お二人の姿、想像できます」

遠麻の前に堂々と立つ星の姿を思い出し、くすくすと一葉は笑った。

いつか2人で大きな舞台に立つときは招待すると、星は一葉に約束した。




「そうだ、星。

いつか京都にも遊びに来てください。

私も招待しますよ」

え...と驚く星。

まさか、五色家のお屋敷に招待される日がくるかもしれないなんて...

「初めてのお友だちです。

きっとお母さまも喜びます」

ぜひ、行きます!

星は、嬉しそうに言うのだった。




前方に、琥珀たちが見えた。

音校の居住スペースとのちょうど境目。

時間は、あっという間だった。



「星、アリスには大切な人にそのアリスの一部...つまりは、自分の魂の一部でもある

能力の結晶、アリスストーンを渡す習慣があります」

そういえば、兄からもらったなと、星は思い出していた。

「私も、星にもっていてほしくて...

あの時、あんなに醜さをさらけ出した私を友だちと呼んでくれたから...」

一葉は、手を差し出した。

そこには、綺麗な糸__“髪”がつむがれた輪があった。

「五色家は、アリスストーンの代わりにこうした身に着けるものを渡すのが風習です。

星のことを想って編みました。

どうか受け取ってください」




「きれい...」

思わず、言葉が漏れる。

受け取ると、五色織独特の発色があり、星の手に渡った瞬間、また違った色合いをみせる。

それに満足そうに一葉は頷いた。

桔梗色の髪留めだった。



「ありがとうございます。

大切にします...!」



2人は抱き合って、また再会することを約束した____





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