▽初等部・男女主X


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「遠麻さま...

いいえ、四之宮トーマ様」



遠麻は、目の前に立つ自分の名を呼ぶ人物が、以前とは明らかに違う雰囲気なのがわかり、

一抹の不安を覚えた。

昨日、星が言っていたことも気になる。




ー遠麻さま...私、ひとつ気になることがあって...

五色家の一葉さま...いえ、一葉にお会いしたのです...

こういうことは、あまり言いふらすものではないと重々承知しているのですが

どうしても一葉の様子が、友だちとして気になって...





学園の、高等部で大きな話題になったことは耳に入っていた。

そしてさらに、今朝、八神家から受けた要請___という名の、半強制的な事案がことの大きさを知らせてくれる。

すべてが、この目の前に立つ、桔梗色の髪と瞳の少女に集約されていた。





今は、音校の演劇発表を終えたところ。

主役という大役をつとめたこの発表。

舞台の演出に紛れて自身の命を狙われかけ___星の助けと機転で遠麻の身も舞台も事なきを得たが___

気疲れが相当あった...

すぐに休みたいが、そうはいかないようだった。

控室、着替える間も与えてくれずに、彼女はそこで待っていた。




「八神家からもう通達はきていると思いますが...

確認のため、出向きました」

感情の読み取れない表情。

それが不気味さを増す。

何かにとらわれているかのような、傀儡のようにも思えた。




「その件ですが、私はお断りさせていただきました」




きっぱりと、遠麻は言った。

その瞳は、ゆるぎないものだった。




「あなたにその権限はないはずです。

仮にも、八神家にかくまってもらっている身でありながら、

命令に背くなんて...

四之宮家には恩情というものが存在しないのですか」




怖いくらいに、冷たい声だった。

自分の感情をすべて閉ざしてしまったかのようなその言い方。

そこに人間味が感じられなかった。




「私のアリスは本来、そのようなことに利用されないために

こうして八神家の方たちの力も借りて、守られているのです。

今回の件に関しては、私自身、納得がいっていません」




遠麻も、きっぱりとした態度を示す。




「あなたの意思はどうでもいいのです。

八神家への忠誠と、恩義を示す時が今ではないのですか」



いよいよだと、遠麻は思った。

今の一葉には、何を言っても駄目だと思った。

明らかに、様子がおかしい。





「四之宮家として、八神家、五色家と対等な立場から申し上げます」

断固とした姿勢で遠麻は言う。

「私のアリスを使って、琥珀さまを懐柔し、今回の婚姻について琥珀さまの意に反し同意させるようなことは、

決していたしません。

これ以上言うことはありません。

“どうかお引き取りを”」




やはり...

八神家と違い、五色家にはフェロモンが効きづらい。

対策をしているのか、もともとの体質が関わっているのか...

一葉は、その場に佇んだままだった。




「仕方ないですね」



一段と、一葉の瞳が沈んだ。



「最初にアリスを使ったのはあなたです。

八神家に逆らい、五色家にそのアリスを向けた相応の覚悟は、おありですね...?」



一葉がすっと右手をあげると、ふわっと、無数の帯のような布が舞い上がる。

それがぎゅっと、遠麻に巻き付いた。




「なっ___」




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