▽初等部・男女主X


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「なぁ、琥珀...

きいてほしい」

蜜柑は、やさしく琥珀に語りかける。




琥珀の部屋。

高等部の寮で最も広い部屋のひとつ。

家具も豪華なものがしつらえられ、4人でも広く感じた。

大きなベッドにうつむきがちに腰かける琥珀。

蜜柑は隣に座り寄り添う。




「うちは、記憶戻ってよかった思ってる。

それはリンもきっと、同じやと思ってる。

うちらの中で誰一人、このままでいいなんて思ってないよ。

うちの親友、蛍のことかてそう...

やっぱりみんなを見つけ出さんと...

それが、思い出すことができたうちの役目やと思ってるから...

うちは、琥珀に協力する...

リンのこと、みんながまた笑ってそろうその日まで、あきらめんといてほしい」




琥珀はぎゅっと、自分の手を握る。




「そう、思ってた...」




葛藤に震える琥珀がいた。




「リンのことを見つけ出すその日まで、絶対にあきらめないって...

でも...弥生に言われて...

初めてあそこまではっきり言われて...

うすうす僕も思っていたことの核心をつかれて...」





ー琥珀さまは、五条リンを守れなかった



ーアリスとは、私たちとは関係のない世界で、一からやり直しているのです


ー過去に捕らわれているのは琥珀さま、あなただけです





「リンは今、幸せなのかなって...

そうだったら、僕にできることはもうない。

弥生のいうとおり、わざわざこちら側に引き入れるなんてリスク...」




珍しく弱気な琥珀がいた。

いつもの自信満々で、支配的な琥珀の影はどこにもなかった。




「ひとつだけ言えることがある。

何も知らないことが幸せなんてそんなこと、あらへんよ。

うちだけがなんも知らへんなんてそんなの、うちの本心からしたら、

なんの幸せでもない。

確かにあの時うちらは__うちとリンは記憶を失くすことを一旦受け入れたけど...

それでも本当は、忘れたくなかった。

大切な人たちを忘れることが、怖くて怖くて、たまらなかった。

この学園で感じたことを、みんなの温もりもすべて、忘れたくなかった。

ずっとずっと覚えていたかった。

うちは、リンの気持ちがわかる」

蜜柑は、その時を思い出して涙を溜めていた。

最後は笑えていたけれど、受け入れるのには時間がかかった。

たくさんたくさん、涙が枯れるまで泣いた夜...





「佐倉...」




流架がそっと、蜜柑にハンカチを渡す。

「ありがとう、るかぴょん...」



棗が、すっと琥珀の前に立つ。

「誰も、好きな女に会いに行くのをとめる権利はねえ。

第一、こっち側に来るか来ないかなんて、本人が決めることだ。

お前が決めることでも、悩むことでもない。

正々堂々会いに行って、きっぱりふられるならふられて来いよ。

お前も、あの京都の女も、振られる前から何自分で決めつけてんだよ。

いい家に生まれたかなんだか知らねえが、お前らは自意識過剰すぎんだ。

いくらお前らがえらくったって、他人の気持ち決める権利はねえんだよ」




棗らしい、ぶっきらぼうで、きつい言葉。

でも逆にそれが琥珀の胸に刺さる。

目が覚めたような気分だった。

流架も、棗らしい、と笑った。




「それと、話を一色単にしすぎだ。

今回の婚姻のことと、リンがどうのこうのって話は別だろ?

まずはあの京都女のこと考えろよ、

女たらし」




「なっ棗っ!!」



なんてこというんや、と蜜柑は言うが、流架はつぼに入ったらしく爆笑している。

「たしかに、棗するどいっ」

お腹を抱える流架。

琥珀はばつがわるくなり、何も言えなくなるのだった。





「もう、おまえらといると、自分が八神家ってことを忘れるよ」




ばっと、琥珀はベッドに身体を投げ出す。

その顔は、なんだか少し嬉しそうに蜜柑にはみえた。




琥珀に続けて棗と流架もぴょん、ぴょん、と大きなベッドに飛び乗る。

蜜柑は3人の仲の良さを、微笑ましく思うのだった。




ー早くうちも、リンや蛍に会いたいなぁ...



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