▽初等部・男女主X


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「水無月、弥生」



呼びかけるように、琥珀の声が響く。

えっと、蜜柑は驚いた。

この場には棗や流架のほかに誰もいないと、信じて疑いもしなかった。

しかし、すっとテレポートで現れる2人。

蜜柑にとっては、5年ぶりだが、髪型に多少の違いはあれど、まったく変わらないように見えた。

琥珀の顔に、厳しさが増した。




「お前たちだろ」




棗はなんだか、腑に落ちた様子の顔をしていた。




「こんなやり方...

絶対に一葉じゃない...

誰に指示された?」




水無月と弥生はすべてわかっているかのような、落ち着いた表情だった。

琥珀の中にわずかに残っていた望みも、その顔をみて打ち消される。

想像できる未来は、最悪だ。




「はい。

一葉さまの指示ではないことは事実ですが...

もう、お察しのはずです...琥珀さま」




水無月の言葉に、今にも琥珀の怒りは爆発しそうだった。



「五色家と八神家は、すでに合意しています。

もちろん、一葉さま自身も...」



弥生の言葉に、琥珀ははっとした。

「一葉が...?」



「あとは琥珀さま、あなただけです。

私たちは、長年琥珀さまに仕え、琥珀さまについて理解してきたつもりです。

今回のこと、琥珀さまが一筋縄ではいかないことなど目に見えていました。

ですから、このような手段をとらせていただいたのです」



ここまでくると、蜜柑にもことの次第がやっと見えてくる。

つまりは、あの高等部中の張り紙は、琥珀の従者、水無月と弥生によるもの。




「本当に、あいつらが思いつきそうな嫌なやり口だ。

まずはまわりを固めて、僕にノーと言わせない状況をつくる。

こういう時に、ノーと言えないように教育してきたのもあいつらの計算ってことか」

軽蔑するような、琥珀の口ぶりだった。




「あいつらって...」

蜜柑は思わずつぶやく。

「八神家の決定権を担う偉い人たちのことだよ。

かつて現役の時は八神家の柱として功績を残してきた人たちで、いくら琥珀でもそう簡単に逆らえない人たちだ」

流架が、小さな声で説明してくれた。




琥珀は自嘲する。

「あとは僕の答えだけだと言っても、僕に決定権はない、そうだろ?

水無月__」

水無月の表情は相変わらずよめなかった。

「琥珀さまは八神家として立派に成長されました。

今や2番隊隊長という、八神家の中でも名誉ある地位。

ゆくゆくは、1番隊の隊長になるお方であり、当主翡翠さまの弟でもある。

私たちはとても誇りに思っているのです。

だからこそ、今一度、八神家のためになることを冷静に考えていただきたい。

個人より、八神家という大きなものを守り、継いでいくという崇高な意志のもと、

決断される答えはひとつしかないと...」



弥生もまた、前に進み出る。



「5年の月日が経ちました。

琥珀さまも、自分にかけた呪縛を解き放つ時です」



「呪縛...?」

琥珀は眉根を寄せる。



「はい」

弥生はしっかりと琥珀の目を見る。



「琥珀さまは、五条リンを守れなかったのです」



はっきりとした言葉。

この5年間、誰も口にしなかったそれを、弥生は言った。

琥珀の体が強張ったのが、みんなわかった。




「しかし、それは仕方のないことでした。

五条リンも、今は新しい道を歩んでいます。

アリスとは、私たちとは関係のない世界で、一からやり直しているのです。

今、過去に捕らわれているのは琥珀さま、あなただけです」




鈍器で殴られたような衝撃だった。

言葉がこんなにも、体中に響くことを、琥珀は知らなかった。






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