▽初等部・男女主X


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「はい、ええ...

はい...

わかっております...

しかし彼には.........

いえ...

なんでもないです。

そのとおりに...」




豪華にしつらえられた、来客用の宿泊部屋。

ひとりには広すぎるその部屋に、一葉の声が響いた。

通話が終わると、ばさっとベッドに倒れこみ、端末を放った。

自然とため息が出る。




そして今日のことを思い返した。

そうすることで、沈んだ気持ちを持ちなおそうと思った。




音校を出た後、琥珀が事前にとっておいてくれたアリス歌劇団のチケットで、

有名な演目を観賞した。

初めて見るそれは、感動以外の何ものでもなかったし、

アリスの新たな可能性をも見出せる、すばらしいものだった。

創造性をかきたてられ、衣装をつくる、様々なアイデアが沸いていた。

さらに役者の演技にも引き込まれ、演技の奥深さも知る。

会場から出るまで、ずっと余韻にひたっていられた。




「少し、最初にみる演目にしては地味だったかな?

一番有名で、豪華で見ごたえあるといわれているのは薔薇組の演目だけど、

あそこはフェロモン系のアリスが多くって僕はあまり好かないんだ。

華やかさは薔薇組に劣るけど、今見た百合組の演目は細部まで作りこまれている感じがすきなんだ」



ナルがフェロモンのアリスだって見破るくらいだから、一葉にはそっちのほうがいいと思って。

悪戯っぽく笑って、琥珀はいう。

「さすが五色家」

琥珀はそう言ってくれるが、あの微妙な動作に気づける八神家も大概だと思った。

でも、琥珀が自分のために選んでくれたのだと思うと、嬉しさは倍増だった。

いけない...

期待なんか、してはいけないのに...

さっき、目の当たりにしたばかりじゃないか...




あれ...

楽しいことを思い出そうとしたはずなのに、さっきよりも落ち込んでる...

そう自覚した。



あのあとは琥珀さまがカフェに誘ってくれて、お茶をして、他愛のない話をしていたら、時間になって...

昨日と同じで、部屋の前まで送ってくれた。

そんな何気ない時間が、すごく嬉しくて...

琥珀さまとの2人きりの時間が、とても楽しくて仕方なかったのに...

ひとりになると、途端に押し寄せてくる虚しさ。

こんな気持ちになるのは初めてで、どうしたらいいかわからなかった。




ああ、どうしたらいいのだろう___

五色の屋敷では、様々な習い事をやった、

お茶にお花に書道、馬術、日本舞踊にピアノにバイオリン、英会話...

礼儀作法を徹底的に叩き込まれ、たくさんのことを学んだというのに...




こういう時、どうしたらいいのかなんて、誰も教えてくれなかった。

同じ歳くらいの子どもとの関りといえば、親戚くらい。

それも、あまり関わりはもてなくて...



一葉は、一族で大事にされるあまり、人と接する機会が極端に少なかった。

お人形のように、屋敷の奥で、大切に大切に愛でられたが故だった。

今回のアリス学園訪問も、勇気を出して言ってみたこと。

一葉を一番かわいがる祖母は、最後まで反対していたくらいだ。



「おばあさまの言う通り...

外の世界は、私には向いていないのかな...」



一葉はぽつりとつぶやくのだった。



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