▽初等部・男女主X


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「さっきは僕のせいで話が終わってすみません」



遠麻は、気分転換にと星を外へ連れ出していた。



「大丈夫ですよ、星。

愛情の対語は無関心ですから...

お兄さんのキツイ言葉はそれだけ星のことが心配で大事ってことです」



遠麻の言葉で、安心している自分がいた。

さっきまでのもやもやは、少し晴れていく。



「お兄さんのことは、僕が確認しますから...

琥珀さまに言えば、なんとかしてくれるはずです。

日向くんはあんな感じでしたが、琥珀さまは、きっと星の力になってくれますよ」



今自分がここにいられるのも、八神家のおかげだと、遠麻は言った。

琥珀のことを、相当信頼しているのだなと思った。

遠麻のその瞳をみていると、自然と力がわきでるようだった。




「無事会えるといいですね」




遠麻のやさしい笑みと励ましが、支えになった。

そんな昨日の遠麻の言葉がなければ、今日の音校の厳しい訓練、授業はこなせなかっただろう。

しかし、昨日の言葉が胸に残っていないと言ったら嘘になる。




ートーマに関わるな...



トーマ、トーマ、トーマ...

一体、誰のことだろう...




そんなことを考えていた時だった。

目の前に、信じられない光景がうつった。




ぬ、ぬいぐるみが動いている....?!?!




ええええええ?!




驚いてる間に、そのクマのぬいぐるみは、星めがけて見事な蹴りをお見舞いした。



「な、なんで...っ」



そんな理由をきいても答えてくれるはずもなく、好戦的なクマのぬいぐるみは次々と星に向かってわざを出す。

いくら剣道をならっていて鍛錬している星でも、すばやく小さなぬいぐるみの動きには、対応できなかった。

そんな時、救世主があらわれる。



「ベア!

あんた何しとるん!

迎えに来るの1日遅れたくらいでスネんといてやーっ

要先輩のとこから脱走したってきいて心配してたんやで」



星はその姿を見て驚く。

この方は、昨日の...

「蜜柑さん...っ」



蜜柑いわく、この動くぬいぐるみは“ベア”といって、

演出部の園生 要さんの元にメンテナンスのため、預けられていたものらしい。

本来ならば昨日迎えに行く予定だったのだが、いろいろあって時間がなくなってしまったのだ。

蜜柑は、決して忘れてたわけじゃない、と重ねてベアに言うも、星同様、パンチやキックを食らっているのだった。

ひとまず、自分に気が向かなくて安堵していたところで、もう一人高等部生がいることに気づいた。

それは、まさかの...



「な、棗さん...っ」



昨日のこともあり、星は棗の顔をみてひっと顔を引きつらせる。

なぜかふぅっと、ため息をつかれ、棗は蜜柑に早くいくぞと促した。

そんな中、身体が、口が、勝手に動いていた。




「あの...

なんで兄は私に、この音校を出て行けと言ったんですか?」



棗はぴたりと足をとめた。




「兄は私に会いたくないってことですか?

...昨日おっしゃってた“トーマ”とは一体誰のことを」



やっぱりもやもやしてたから、聞かずにはいられなかった。

途中まで言いかけた時、はっとした。

棗も蜜柑も気づいたらしい。



そこにはいつのまに佇む、遠麻の姿があった。






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