▽初等部・男女主X


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「琥珀様、お聞きしてもよろしいですか?」



ふと、一葉がいう。

「ん?」と反応する琥珀。




「琥珀さまは、なんで学園に通われているのですか?

きっと、家業との両立は大変なはずなのに...

今だって、昨年2番隊隊長の身で...」



一葉の素朴な疑問が、琥珀以外にささっていた。

皆、琥珀の言葉を待つ。



「んー...

一番は、姉さんと兄さんが通ってたからかな。

2人が通ってたから僕も通うんだろうなって、小さいころから思ってたし...

僕の中ではレアケースだなんて思ってなかったな。

だから家業と両立することもあたりまえになってたし...

でも、確かに他の八神家のいとこたちは学校に通ってないなあ」

思い出したように言う琥珀は、あまりそのへんを深く考えたことがないようだった。

しかし、ああ、と何か思い出したようだった。




「昔姉さんが言ってた。

学園に通わせたのは父さんだって。

珍しく、父さんが本家の意向をつっぱねて、学園に通わせることにしたらしい。

おじいさまも反対しそうなことだったのに、なぜか反対しなかったのをみんな不思議がってたって。

卒業してから姉さんが父さんに、なぜ学園に通わせたかきいたら...

“世界が広いということを知ってほしかった”

“時代の変化、様々な価値観に触れて、成長してほしかった”

“決して私のような大人に、ならないように”

そう、言っていたって...」




その時は、なんだか父さんらしくないと思っていた言葉。

今なら、なんとなくわかるような気がした。

父さんと皐月の関係を思い出して、ふと思ったのだ。




「素敵な考えをお持ちなんですね。

だから今の琥珀様があるんでしょうか」

一葉は言った。




「そうかもね」

少しだけ照れくさそうに、琥珀は笑った。

「大事だと思える友だちと出会えたことは、僕にとって何よりすばらしいことだった」

今度は、棗と流架が照れくさそうにする番だった。




その時、あっと、一葉は何かに気づき、琥珀にかけよる。



「琥珀様、ネクタイがずれてます」



そう言って、もっていたかばんが汚れるのも気にせず地面に置き、

一葉は慣れた手つきで琥珀のネクタイを直す。



いきなりのことに、さすがの琥珀も驚いていた。

この光景、前もあったな...

と思う一同。

しかし、蜜柑のときとは、一葉の手際が違った。

白く細い手が、さっと動き、形よく整えられたネクタイ。

蜜柑はその手に釘付けになっていた。

前回と同じなのは、あまりの近さにドギマギする琥珀。

視線の端で、流架と棗がいたずらっぽく笑っているのが見えて、

心の中で舌打ちした。

こんなことで動揺するなんて、僕らしくない...




そう思っている間に、ネクタイは今朝よりもきれいな状態になっていた。

一葉は、はっとして一歩二歩と下がる。

「し、失礼しましたっ

出過ぎた真似を...」



あまりにも深々と謝るから、琥珀は「謝らないで」と顔をあげさせる。



「ありがとう。

一葉は本当によく気が付く。

さすがだよ」

やさしく笑う琥珀。



「お召し物のことになると、つい...」

なかなか琥珀の目を見られない一葉。



「僕は一葉のそういうところを尊敬してるんだ」



一葉の顔が、ぽっと紅潮した。

それをみて、蜜柑ははっとする。

もしかして一葉ちゃんって...




「お前、中途半端にやさしくしてもあいつのためになんねーぞ」



高等部に戻る中、棗が言った。

前方では、だいぶ打ち解けた蜜柑と一葉が楽しそうに会話している。



「え...?」



琥珀は、なんのことかイマイチわかっていなかった。

流架に助け船をもらいに視線をおくるが、流架もまた、困ったように笑うだけだった。

棗は、一体なにを...








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