▽初等部・男女主X


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「ナル先生〜〜〜!!!」



音校の敷地内、その姿をいち早く見つけた蜜柑は嬉しそうに抱きつく勢いで、そのもとに駆け寄った。

そしてこれまた嬉しそうにキラキラとした笑顔をふりまいて、受け入れる鳴海。

棗は今日一段と不満そうだ。




「蜜柑ちゃん、ひさしぶり。

蜜柑ちゃんの方から会いにきてくれるなんて嬉しいよ」



「せやかて先生、校長先生なんやから忙しいんやろ?

待ってられへんくて、来てもうたよ〜

みんなも音校には用事があるみたいやし」



鳴海は後ろの顔ぶれを見つめ、にっこりする。

「ずいぶん大所帯になったね」

当初の予定と違ったが、琥珀がいることで納得する。



「君は...」



琥珀のそばにいる、見慣れない高等部の女子生徒をみた。

しかし、前情報とその桔梗色の瞳で理解した。



「五色家のお嬢さんだね。

歌劇団の衣装をおつくりになるとか」



校長なだけあって、話が早い。

一葉は前に進み出て、お辞儀した。



「五色 一葉と申します。

おっしゃるとおり、歌劇団の衣装をつくるにあたり、見学させていただきたくこのような運びになりました」



「ご丁寧にありがとう。

僕も五色家のつくる衣装をとても楽しみにしてるから、

好きなだけ見ていって」



とても人当りの良い人だと思ったし、さすが音校の校長だと思うほど、容姿端麗だった。

そしてこの雰囲気は...

察するに、フェロモンのアリスだろうか...

それもかなり強い...

無意識に距離をとってしまう。

蜜柑たちにしたらその行動は、何の不自然さも見て取れなかったけれど、鳴海と琥珀にはわかった。




さすが五色家...

もう僕のアリスに気づいたか...



鳴海は面白そうに、ひとり笑った。



「それと、この度はご結婚、誠におめでとうございます」



一葉は丁寧にお辞儀したが、蜜柑があーっと声をあげる。



「うちが先に言いたかったのに、一葉ちゃんに先こされてしまったわぁ」



蜜柑はもう一度ちゃんと鳴海に向き直り、



「結婚おめでとう、ナル先生!」



と言って、紙袋に入ったお祝いの品を渡した。



鳴海は驚いていたが、微笑む。

「こんなに気を使わなくてもよかったのに。

でも、ありがとう、蜜柑ちゃん。

一葉ちゃんも」

鳴海はウィンクしてみせた。

なんだか変わり者の先生だな、と思ったのと、あの八神家の方と一緒にいる姿が想像できなかった。

ちなみに蜜柑の贈り物のセンスは、あまりいいとは言えなくて...

盛ったごはんが勝手にお結びになるという、どうにも使い勝手のわからないめおと茶碗のセット____

終始皆、苦笑いだった。

しかし蜜柑は、鳴海がよろこんでくれて嬉しそうだった。




「あっ志貴さん!」




蜜柑が来ると知って、中等部校長兼、音校の理事長の志貴もきていた。

相変わらず過保護だな、と琥珀がつぶやき棗と目配せするのを一葉はみた。

蜜柑と志貴の会話に区切りがついたところで、一葉は前に進み出る。

志貴雅近のことは知っていた。

5年前急に名を知らしめ、アリスの世界ではその血筋とアリスと功績で、一気に発言権を得た人だ。




「志貴さん、お目にかかれて光栄です」



「君は、五色家の、五色一葉さんだね」


感情のわからぬ瞳に、落ち着いた風格。

強い守り、結界のアリスの持ち主たる姿だった。



「はい、少しの間、お世話になります」



一葉は、きれいに整った所作でお辞儀した。

そのひとつひとつの動作が美しく、丁寧で、礼儀作法をきっちりと教え込まれたのだなと推測できた。



「こちらこそ、君の功績に何か役立てると嬉しいよ。

時間があったら中等部にもくるといい。

君に会いたがっている人がいる...」



一葉はぴんときていなかったが、その他全員は、ああ、あの人ね...と察していた。

あの広げた扇子の影に広がる笑みと、じっとりと見つめる視線を思い出し、琥珀なんかはぶるぶるっと寒気がした。





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