▽初等部・男女主X
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「去年、そんなことがあったやなんて...」
蜜柑は昨年1年の出来事なのに、こんなビッグニュースがあるなんて、
5年分の学園の話をきいたらひっくりかえってしまうのではないかと思う。
そうじゃなくてもこの1週間、学園のことやアリスのことについてきかされ、
いない間の小さな出来事にもひっきりなしに蜜柑は驚いていた。
これはしばらく、蜜柑の驚きの悲鳴を聞き続けることになるだろうなと、3人とも覚悟を決めた1週間だった。
「去年は特に、八神家にとっておめでたいこと続きだったんだよ」
流架が穏やかにいう。
ああ、そうだったと琥珀は頷く。
蜜柑はまた、興味津々に琥珀に注目する。
翡翠が八神家の当主に就任したということは、この1週間のうちに言っておいたが、
これは言ってなかったなと、琥珀は思いなおす。
「去年は、姉さんに続けて、兄さんも結婚したんだ」
すごくきれいな人だよ、と興味なさげに琥珀はつけたす。
へぇーーーっ、と蜜柑はいいニュースの連続に、よくリアクションにつかれないなというほどに嬉しそうだった。
「それだけじゃないよ」
と流架。
しかし「よせよ」という琥珀的にはあまりおおっぴらに言ってほしくなさそうだった。
何々?と、さらに近づく蜜柑。
「琥珀も八神家内で昇格したんだよね。
100年にひとりの逸材だって、すごく話題になったよ」
なぜか2人の結婚の話題よりも、すごいことらしく、一瞬にしてふれまわった。
「ただ5番隊から2番隊になっただけだよ」
琥珀はなんでもないことのようにいうが、流架はそれがどれだけすごいことか、力説してくれた。
日本の軍事のトップにいる八神家の狩り部隊のNo.2に若干16歳でなることは、異例中の異例。
そこに、八神家の皆に一目置かれるほどの琥珀の才能と強さが現れていた。
「去年はそう言う諸々のことがあって、おじいさまは比較的機嫌がよかったな」
自分に利益があったのはそれくらいだよ、と琥珀はいうのだった。
幼いころからその才能を周囲に認められ、ちやほやされ慣れてるのだろうか。
ここまでくるともう、こんなに落ち着きが生まれるのか、と蜜柑は変なところに感心していた。
瑠璃と翡翠の結婚、琥珀の昇格...
確かに、去年は八神家にとっておめでたいこと続きだった。
そして密かに学園内で騒がれていることがあったが、それはまだ4人の耳には届いていなかった。
その内容は、琥珀の結婚相手についてだった。
もう1年もすれば琥珀は18歳になり、結婚が可能な年齢になる。
度重なるおめでたいこと続きに、この波に乗るのではと、学園の生徒が噂しないわけがなかった。
もちろん女子たちは黙ってはいない。
身長も伸びさらにかっこよくなった琥珀への注目は、5年前とは比にならないほどだった。
そしてもう一つ。
急にあらわれた蜜柑の存在。
学園内は、5年前のできごとを詳しく知らない人がほとんどだった。
あの、学園人気トップ3のイケメン3人と常に一緒に行動する、佐倉蜜柑とは何者か...
噂によると、あの日向棗と付き合ってるなんて...
女子からの嫉妬は避けられなかったが、
蜜柑に嫌がらせしようものなら、自分の身が危ないと、皆、指をくわえて見ていることしかできなかった。
3人は一緒に歩いているだけで注目の的だったが、自覚せずとも、蜜柑への嫌がらせの抑止力にもなっていた。
しかし蜜柑への嫌がらせを考える前に、本当に怖い人物を皆、忘れていた。
中等部校長室。
志貴は最初の1か月はずっと、蜜柑の監視と守りをゆるめなかった。
姫宮に過保護じゃの、と言われても気にしなかった。
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