▽初等部・男女主W


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柚香の葬儀が終わり、心配する流架をおいて、その背中を追いかけた。

思えばいつの間に、その背中を見るようになったのだろう...

いつも病弱で、床に伏していた弱い兄...

覇気もなく、八神家らしい闘争心のかけらもない...

兄と呼ぶのもためらうほどだったのに...

一族の中でもその弱さから、弟の僕よりも扱いが下だったはず...

それなのに...いつの間に...





「今回のこと、どれくらい前から考えていた?」

無機質な琥珀の言葉。

怒っているようにも聞こえた。

「いつの間に高校長と手を組んで...

Z襲撃の時も、対応の速さが異様だった。

霜月のことも...ずっと知ってたのか?」

不信感が募っていた。

次の言葉によっては、絶対に翡翠を許さないとさえ、思った。

仮にも霜月は、皐月として、リンの命を狙った。

それをとめた事実はあれど、翡翠が以前からそれを知っていたのなら、許すわけにはいかなかった。

対峙する翡翠の目は青く透きとおり、真実を述べようとしているのがわかった。

「高校長のもとに行ったのは、

梓さんが行方不明になって、行平先生が亡くなり、柚香さんが学園を去ってからすぐ。

自ら、高校長のもとに行って、進言した。

必ず役に立つと、誰にもこのことがバレずに、もちろん迷惑をかけないからと...

高校長は最初戸惑いはしたけれど、まだ当時6歳だった八神家の僕を、信じてくれた」

そんなに前から...

琥珀は、翡翠の覚悟が思ったよりも強いことに驚く。

「でも、自分の八神家という立場もあったから、表立った動きはできないし、できる援護はたかが知れていた。

実際、こんなに時間も経ってしまって、柚香さんも亡くなり、佐倉さんも幽閉状態...

僕が本当に役に立てたのかもわからない...

高校長の切り札だった僕も、姿を現してしまっては、初校長にその手のうちを明かしたことになる」

「でも兄さんは、僕にできないことができた...」

悔しがっている自分に気づいた。

確かにあの時、僕の前に立ち、八神家の言葉を発したのは翡翠だった。

八神家の部隊を手配し、初校長との契約を有利にもちこんだ。

俯瞰してみて、指示を出し、戦いの中でも冷静に、全体を見ていたのは他でもない。

翡翠だ。

しかし、どうしても確かめなければならないこともある。

琥珀の瞳から察して、翡翠は口をひらく。





「霜月の正体については、薄々勘づいていた。

知っていて、僕は彼を利用しようと思ったんだ」

その言葉に、驚きを隠せない。

ただきれいごとを並べ立てるだけの平和なやつだと思っていたが、その頭はそう単純じゃなかったらしい。

「ははは、驚いた顔してるね」

そう穏やかに笑う翡翠には、ひとかけらも悪意を感じ取れない。

「利用っていっても、大したことじゃない。

気づいてからは、ただ彼の動向を慎重に伺ってただけ。

付き人として彼は完璧にこなしていたし、これまでにないくらい優秀だったから。

まあ、その正体が八神家なんだから当たり前だけど。

彼の目的は、単純に僕らの監視。

おじいさまは疑り深い人だし、ああ見えて策士なところあるからね」

ほんとに怖いのは目じゃなくて、頭の中だよ。

と翡翠はなんでもないふうにいう。

だから翡翠は、銀蔵の前でも物おじせず、自分を保っていられたのか...

銀蔵の本質を、昔から見抜いて...

銀蔵にとってそれはさぞ、目障りだったろう...

嫌悪感にすら値する...頭の中をのぞかれているような感覚...

一族の中とはいえ、耐えられなかったのだ。

だから翡翠は、八神家で冷遇された...

八神家では銀蔵の意志がすべて。

そこに反するもの、気に入らぬものは八神家にあらず。

銀蔵が言わずとも、それは暗黙の了解のように、一族で共有された。

銀蔵は、翡翠を恐れている...?

だから翡翠を遠ざけた...

その結論にたどりつき、本当のことが見えた時、琥珀は震えがとまらなかった。

翡翠は、決して弱くなんかなかった。

本当に才があったのは、僕なんかじゃなく、翡翠だった...

そして、自分の中にある翡翠への嫌悪感にも説明がついた。

それは本能。

銀蔵と近いがための、自然の摂理...






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