▼高等部・男主W


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次の日、父は仕事の休暇をとった。

「パパ、いいの?」

と心配そうな舞。

「ああ。有休まだあったからな。

それに、久しぶりに家族全員そろったんだ。

...仕事よりも、大事だよ」

そう言って車のハンドルを握っていた。

助手席の母も、なんだか楽しそうだった。

「ほら舞。

しっかりシートベルトしめて」

母はそう、さとすのだった。

「なにこれ...」

舞は、奏をちらりとみる。

これじゃまるで...

奏との最後のお別れみたいじゃん...

そんな思いとはつゆ知らず、奏は人一倍はしゃいでいた。

詩は浮かない顔の舞が、気がかりだった。






父が車を走らせついたのは、屋内型のテーマパーク施設だった。

アトラクションもあれば、水族館もあり、小さな動物とも触れ合えて、なんでもできる。

奏が以前から行きたがっていた場所だった。

テンションが上がり、まっさきに突っ走るのは詩と奏。

それを遠くから見つめる、両親と舞。

「あまり遠くにいかないでね」

母の声に、元気な返事が返ってくる。

父は、舞にやさしく語りかける。

「舞も、奏が生まれる前、ここに来てたんだぞ?

覚えてるか?」

うん、と頷く舞。

「舞もあの2人みたいにはしゃいでたのよ。

なつかしいわね」

母が言った。

「そ、そんなことないからっ

あんなの...恥ずかしい」

舞は顔を真っ赤にする。

両親は顔を見合わせて笑うのだった。






「ほら、奏...見えるか?」

詩は奏を肩車し、大きな水槽の前に立つ。

うわぁ....と声をあげる奏は、水槽の光が反射して、よりきらきらしていた。

「兄ちゃんは、海、みたことある?

入ったことある?

ねぇ、しょっぱいってほんと?」

奏は興奮していた。

「海かぁ...近くではみたことないなぁ」

えー、そうなの。と残念そうな奏。

「アリスは、国の境目、海に近づいてはいけないんだ」

「じゃあ...僕も見ることはできないの?

お兄ちゃんと同じ...アリスだから...?」

「そうだな....

今はそうだけど、でもいつかきっと、奏のこと海に連れてってやるよ」

「えっほんとに?!」

ぱっと奏の声が明るくなる。

「ああ、ほんとだ。

...約束する」

奏は、すごく嬉しそうだった。

アリスだからといって、何もかも諦めてほしくない。

アリスであるということを、後ろめたく思ってほしくない。

奏はまだまだ小さい。

これから、たくさんの可能性に満ち溢れているから...

その瞳を、濁らせたくないから...





舞は、パークの中心のショーを見入っていた。

そこでは、きらきらとした衣装を着た人たちが、歌を歌ったり、ダンスをしたりして、客を魅了していた。

すごい...と思った。

遠く離れた客席にも、伝わる迫力とその表情。

小さな波が、何倍も何倍も大きくなって、身体を震わせるその感覚。

憧れだった...




「すごいよなぁ!かっこいいよなぁ!!」

自分が思っていたことを、詩も思っていたらしい。

目を輝かせて、「楽しいな!」と舞に笑いかけた。

う、うん...舞はそれだけ言って、またショーを見続けた。




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