▽初等部・男女主W


□91
3ページ/5ページ



「はじめ...これは一体...」




翡翠が蜜柑のいる迷宮棟に到着した時、そこに蜜柑の姿はなかった。

代わりに、姫宮の庇護下にいたはずの危力系が勢ぞろいし、風紀隊と戦っていた。

ずっと、胸騒ぎがしていた。

その正体が今わかる。




「なってしまったものは仕方ない...」

翡翠は言って、櫻野のアクアマリン色のアリスストーンを取り出す。




「翡翠、待ってくれ...私も行く...っ」




危力メンバーは、初めてみる八雲の姿に驚く。

八雲はこういう時、自分の意見や意思を言うような者ではなかった。

しかし、その瞳をみて思う。

彼も、変わったのだ...

たぶん、この、八神翡翠のおかげで...




ーはじめ、君に頼みたいことがある...




あの時のことを思い出す翡翠。

まっすぐにみて、

「行こう」

とただ一言だけ言った。





蜜柑の居場所は、大方予想がついていた。

危力メンバーも、そこは...

“病院”だろうと言っていた...




八雲を連れて向かった病院。

それは、ペルソナから腐食のアリスを受け、現在治療中の茨木のばらのもと。

そこには案の定蜜柑がいて、昴や櫻野のサポートのもと、たった今、その治療を終えたところだった。

脱走に加え、“盗みのアリス”の使用。

初校長の描いた筋書き通りになってしまった。





「翡翠...」

櫻野の目は、とめられなかったと、言っていた。

この状況、自分であってもそうしただろう...

翡翠は頷いた。

のばらの心臓がまた動き出し、安心の涙に濡れる蜜柑をみては、

この行動が正しい以外になにものではないことくらいわかる。




そしてさらに驚くべきことは、長い間ずっと初校長側にいたペルソナが寝返り、

蜜柑を守る意を示したこと。

またこの少女は、人の心をゆるやかに、あたたかく溶かしたのだ。

そのひだまりのようにやさしく、どんな人にも抱きしめるような愛情をもって...

“ゆるす”勇気。

万人ができることじゃない。

数々の偉業を成し遂げた八神家にもそれは、到底成しえないことだと、

それはまさしく彼女の特別な“才”であることを、翡翠はその身に染みて感じた。





「この申し出が君にとって...

どれだけ身勝手に映り、信用ならないものかは

十分...承知している...

君の父や仲間を、手にかけたこの手を...

この手をとることが君にとって、どれだけ苦痛であるかも...

...だけど、どうか罪を償わせてほしい。

のばらや、行平先生に報いるためにも...」




ペルソナのふりしぼる勇気...

自力で抗い、自分の意思で這いあがる決意...

のばらが見守るその先...




蜜柑はしっかりと、その手をとり、握った。

彼の気持ちを受け止め、信じた___





.
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ