▽初等部・男女主W
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「始まったな...」
大きなモニターをみて、にやりと笑う皐月。
先ほど、通信がつながった。
梓は、文音の残した地下施設で無数のコンピュータを前に、せわしなく指を動かす。
ほとんど当時のままで、電気さえ通っていれば、古いが簡単な修理を施せばまた使えた。
「ちと...っ」
“千歳”と呼ぼうとして、あっと息をのむ。
「...あんたも手伝いなさいよ。
パソコンくらいできるでしょ」
梓の様子に、はいはーいと気の抜けた返事をするのだった。
あと、もう少しだ...
こいつを追い詰める材料は、パズルのピースは、もうすぐそろう...
あとはこれを、国内外に配信し、あの男の悪事を白日のもとにさらすだけだ...
このまま、うまく事がすすめば___
「高校長、五十嵐梓の情報をもとに作成したファイル、
国内外の主要人物・機関宛にすべて送りました」
「たった今、八神家の当主、八神銀蔵氏からも正式にこの件に関し
協力をするという旨の言葉をいただきました...っ
八神家が、味方につきました...ッ」
高等部の校長室も慌ただしく動きはじめる。
己の身を賭けているのは、鳴海ひとりだけではなかった。
八神邸___
「銀蔵様!
私たちは反対です!!
学園の争いごとにこれ以上、我々が首をつっこんでしまっては、
あとあと尋問にかけられますぞ」
「巻き込まれる前に、今すぐ坊ちゃまたちに、ご帰宅の命令を...」
「長年アリス学園とは均衡を保ってきたのです。
わが一族の立場もあります...」
八神家の面々の必死な言葉に、銀蔵は表情ひとつかえなかった。
「五月蠅い。
わしが決めたことには、誰も口出しさせぬ」
ただ一言そう言った。
それは、皆を下がらせるには十分な圧と言葉だった。
翡翠が、高校長と八神銀蔵の話し合いの場を取り持った。
瑠璃が、独自のルートで仕入れたという、信頼できる情報を提示した。
琥珀が、学園...そこにはびこる悪を根絶させるために、その身を賭して戦いたいと言った。
3人の青い瞳が、こんなにも強く、同じ方向をみたのを、未だかつてみたことがなかった。
ひとりひとりはまだ、銀蔵から見れば青二才にすぎない。
しかし結集したその姿、3人の獣の圧を前にしてしまっては、さすがの銀蔵も敵わなかったのが本音。
いつのまに成長したのか...
銀蔵はまたひとつ、八神家の繁栄を想像し、笑いが絶えなかった。
「いいだろう...
この件、お前たちに任せよう。
八神家の名の元、恥じぬ戦いをしてこい。
わしは一切、口出しをせん...
お前たちの力量、みさせてもらうぞ」
3人とも、誰一人怖気づくことなく、その瞳をまっすぐに射貫くほど見つめ返した。
やってやる...
八神家の力を...みせてやる...
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