▽初等部・男女主W


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「お、おまえ...っ

なぜここに...」

目の前に現れた人物に、皐月は心底驚いているようだった。




「言っとくけど俺はちゃんと翡翠のいうとおり...」

そう何やら言っている横を静かすぎるくらいに、何も言わずに通り過ぎた。

そしてその部屋の扉を開ける。





「アズ先輩、遅くなりました」





真っ先に向かった人のもと。





先輩はすべてわかったように、笑う。





「待ってたわ」




痛々しい火傷のあと。

負った傷の数々...

目はやはり、見えていないようだった。




「でもまた、行くんでしょう?」




すべて見通して、言った。

瑠璃はうなずく。





「暴れてきます」





梓もまた、その言葉に今まで以上の信念を感じたから、ええ度胸やない、と頷いた。




「リンと、約束したんです...

先輩のもとにいるって...

でも私は...」

「わかってる」

梓はさえぎった。




「あんたが決めたことなんやろ。

もうあの頃の、弱虫とちゃう。

自分の運命に怯えて、小さくなってるあんたやない。

私のことは心配しなくても大丈夫や」

瑠璃は安心して笑う。

よかった...

いつものアズ先輩だ...

私も、先輩みたいにちゃんとひとりで立って、戦いたいから...

「先輩が命がけで得た情報も、必ず役立てます」

ありがとう、信じてる...と、梓は言う。

この頼もしい後輩がいれば、何も心配はない。

何も怖くない...

瑠璃ならきっと、やり遂げてくれる...

一番の信頼を置く人。




瑠璃は無駄なことは一切言わず、「また来ます」と言った。

「うん、待ってる」

梓もそれだけ言った。




「大丈夫かよアイツ...

人殺したくてうずうずしてる目してたけど」

瑠璃が去ったあと、皐月はふっと笑って言った。

瀕死の梓を学園から連れ出した時も、そういえばそんな顔をしていたと思いだす。

瑠璃は、梓を抱えた皐月にただ一言。

刺すような冷たい目で言った。

“アズ先輩に何かあったら、アンタをなぶり殺してやる”と...

これだから八神家は敵にしちゃいけないんだ。

片足をつっこんだだけの半端な俺なんか、敵うはずがないんだと...





「あの子がみてるものは、そんなちっぽけなものじゃないわよ...」

静かに、梓は言った____




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