▽初等部・男女主W


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「瑠璃...」



会うのは、柚香の墓参り以来だった。

あの時よりかは体中の痣もなくなり、みていて痛々しさもなくなっているその姿。

しかしその表情は、どこか疲労が見えた。

琥珀の姿もここ最近ずっと見かけていない。

八神家の任務が多忙を極めているのは、目に見えてわかった。

志貴から、その理由についてもきかされ、翡翠もそれによって動きを制限されている状態だと...





そして、そんな状況だからこそ、自分が呼ばれたのだ。

先ほど、新年早々に志貴に呼び出され、新しい役割なる任務を、依頼されたばかりだ。





「新年早々、物騒な顔...

縁起がわるいわね」





瑠璃は落ち着いた色合いで、装飾も派手ではない着物を身にまとい、正装姿だった。

髪もぴしっとまとめ、新年なのに華美ではないその姿がまるで、彼女の固い決心を体現しているようだった。

その姿はいつにも増して美しく、閑麗な様。

佇まいは静かだが、そのうちに、青い炎を燃やし秘めているのはゆうに察する。

ここは花姫殿の廊下。

姫宮に新年のあいさつに来ていたのだとわかる。





その青い瞳で見つめられれば、わかっていても怖気づいてしまう。





「そっちこそ、まるでこれから戦地に向かう兵隊のよう」





そう返せば、細かに笑う。

「どうやら、同じみたいね。

あの日から私たち、こうなる運命だったのかな」

あの、梓がいなくなった日。

先生が亡くなり、柚香まで学園を去った。

置いてきぼりをくらった私たち。

ずっとずっと心に開いた穴を、今の今まで埋められることもできずに、

もがいて、苦しんで、たくさん諦めを知って...

いろいろなものを失って、見て見ぬふりをして、

自分が傷つかない方法ばかり選んできた。




そう、私たちは似た者同士...

哀しいくらいに似ている...




でもそれも、今回で終わりだ____

終わらせるんだ...

やっと、終わらせることができるんだ...




瑠璃の瞳が切なく揺れた。

どうしてか、そこから目を離せなくて...




君はもしかしたら、一番八神家らしくないのかもしれない。

翡翠よりも、琥珀よりも...

今だってほら、さっきまで八神家の目をしていたと思えば、

急に普通の人間の目をする。

普通の弱い、救いを求めるような目...

言葉とはちぐはぐな、君の感情...

一体、君はどっち...?





「あんたは今の今まで、一度もそのアリスを...

私には使わないのね」

笑って言う瑠璃のその瞳は、泣いているようにもみえた。

女の人の、濡れた瞳。




その瞬間に、ばっとその鳴海の身体に抱きつき震える瑠璃。





「バカやらないでよ...ナル...っ」




震えた声。

痛いくらいにきつい力。

しかしそれはすぐにゆるんで....

呆然としている間に、その姿は廊下の奥へと消えた。





瑠璃の去ったあと、かすかにキンモクセイの香りが残る。

それはフェロモンのアリスのように、一瞬、脳をしびれさせた____




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