▽初等部・男女主W


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月日はたって、あっという間にクリスマスを迎えていた。

学園の三大イベントのひとつ、クリスマスパーティーは、今年も豪勢に開かれていた。

生徒たちもこの、特別な一夜を楽しんでいるところだった。





リンもまた、赤いドレスに身を包み、薄くメイクをして、髪も巻いてアレンジしてもらっていた。

今日こそは、会えるかもしれないから...

会って、その瞳に映りたいから...





メインの仮面舞踏会が始まった。

ダンスの曲が流れ始める。

リンは仮面の奥、その青い瞳を探した。




違う...

違う...

違う...




人の間を縫った先、思わずあっと、声をあげてしまった。

その人物はしーっと唇に指をあて、手招きした。



「お探しの人物ではなくて、がっかりしました?」

そう、にこやかに言うのは、青い瞳。

翡翠だった。

そうですなんてとても言えなくて、いいえと首をふる。

思えば、あの時命を救ってもらったのに、まだお礼も何もしていなかった。

「あの...っ

私、あの時...

助けてもらって、

ありがとうございました」

そう言って、頭を下げる。

「いいえ。

八神家として、当然のことをしたまでです。

僕がいなくても、弟がいましたから...

むしろあれは、八神家の醜態。

こちらこそ、申し訳ないです」

深々と、きれいなお辞儀が返ってくる。

「そんな...翡翠さんが謝ることじゃ」

いいえ、と首をふる翡翠。

「あれは八神家として恥じるべき行為でした。

もう二度と、五条さんを危険な目には遭わせません」

誓って...と翡翠は噛み締めるように言った。

それからまた、ふわっと空気を元に戻す。

本当に、八神家...翡翠は自分の空気をつくるのがうまかった。

そのテンポに、ダンスのようにのまれてしまう。

「今夜呼び止めたのは、こんな話がしたかったのではありません」

え...と首をかしげるリン。

「ある方から、クリスマスプレゼントなる...

クリスマスカードを預かったので...」

そう言って、翡翠は1通の2つ折りの赤いカードを差し出した。

いつの間に、翡翠の肩には赤茶色のフクロウがいて、リンが受け取ったのをみると、

勢いよく雪降る寒空の中、飛び去った。



これは...



翡翠はやさしく頷く。

「みんなには内緒です、特別です...

むろん、この提案も姉さんから受けたので」

瑠璃の顔が浮かんだ。

元気に、してるだろうか...

あの時、最後に抱きしめてくれた瑠璃のぬくもりを思い出す。

私を殺せと命令が出ていたのに、八神家の命令は絶対なはずなのに...




私は、守られた...




その事実が、毛布のように自分をくるみ温めてくれる。

カードを握りしめ、言葉にならないこの気持ちを噛み締める。





「ありがとうございます」




やっと出たその言葉に、翡翠はやさしく頷いた。

「君が探している彼にも、きっと会えますよ。

クリスマスは、特別な日ですから...」






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