▽初等部・男女主W


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「なぜ隠した?!

能力がありながら...

僕を、嘲笑ってたのか?!

ずっと、見下して...」

気が付けば声を荒げていた。

しかし翡翠は、どんな時であろうと、感情の波をたてなかった。




「違うよ」

静かな声で制する翡翠。

琥珀とは対照的で、とても落ち着いていた。

「僕は僕自身を一番理解している。

僕の能力を最大限生かすことを考えたまでだ。

僕は、八神家の中で優れているとは思えない」

「まだそんなこと...っ」

イライラした。

いつもこうだ。

こうやって、余裕そうに話す翡翠が昔から、嫌いだった。

今すぐ殴ってやりたい衝動にかられたが、好戦的な意識のかけらもない翡翠の目は、それさえも抑えさせた。

「残念ながら、僕の身体が弱いのは事実だ。

琥珀や姉さんのように、前線では戦えない。

そして今回も、結果、みんなを守れたとはいいきれない。

八神家は強いよ。

けど、僕自身はそれほどじゃない」

翡翠の瞳は一段と強く、まっすぐ、ゆるぎなかった。





「これからは、力を合わせなきゃいけない。

個々の力だけでは、あの男に敵わない。

あの男の力は、八神家に匹敵するほど根深くこの国に影響を与えている。

それはおじいさまも、長年にわたって厄介がってきたことがら。

今回の件、おじいさまが表立って何も言わず、沈黙を保っているのがその証拠」

大々的な問題になっているはずなのに、未だこの件に関して、銀蔵からの言葉や招集はかかっていない。

静かすぎるのだ。

翡翠の言う通り、銀蔵はこの流れをあえて静観していると捉えるのが妥当。




「琥珀、僕が前に立つ。

琥珀みたいには戦えないけど、表に出た僕を、初校長は警戒せざるをえない。

この隙を、琥珀には利用してほしい。

僕が目立ち、発言権をもつことで、警戒される反面、琥珀の機動力はあがる。

僕に視線があるうちに、今度は琥珀が動いてほしい」

翡翠の言葉には、納得せざるをえなかった。

「今は個人のために動くより、全体をみてほしい」

誰を言っているかなんてわかる。

リンのことだ。

「初校長を倒した先に、みんなが救われる未来があると信じて、

今は、ただ...」

「わかってるよ」

琥珀はさえぎる。

「僕だって八神家だ。

こんな勝算のある狩りに、のらないわけがない」

翡翠の導きによって、見えてきた。

そして、翡翠には個をまとめる力、その集まった大きな力をより効果的に動かす力があると、確信した。

翡翠に従うこと以外、最適な解がみえなかった。





「僕はおじいさまとは違う。

強いとわかったら、それが味方であるならば、利用しない手は選ばない」

琥珀の目に、翡翠は笑って頷く。

「琥珀はずっと、頼もしいよ」

自慢の弟だと、翡翠は尊敬のまなざしを向けるのを忘れなかった。

嫌いだけど、ムカつくけど、憎めない。

八神家らしいとか、そんなこと関係ない。

おじいさまがどうとか、どうでもいい。

僕も兄を、尊敬している___





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