▽初等部・男女主W


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流架と、話していた。

思えば2人で話すのは珍しかった。

いつもは蜜柑や棗、琥珀、蛍がいたから。

流架は穏やかに、ここ数か月のことを話して聞かせてくれた。





雨の中行われた、柚香さんの葬儀。

リンは外出の許可が下りず、蜜柑の顔すらあの事件以降みていなかった。

生徒で参列が許可されたのは、翡翠や櫻野、昴など一部だけ。

流架をはじめとした他の生徒たちは、本当はいってはいけないのだけど、遠くからそれをみていたらしい。

その中には琥珀もいて...

ただただ静かに、降りしきる雨の中、傘もささずに佇んでいたという。

流架はそっと、傘をさした。





「流架、僕はいいよ。

すぐ乾くんだ...これくらいじゃ風邪もひかないし」

「うん...知ってる。

...悲しいね、琥珀」

そっと、流架は琥珀の心に寄り添った。

どんなに周囲から獣呼ばわりされても、彼の心は人間だ。

どんなに鋭い牙や爪で取り繕っても、強がっても、本当のことを言えなくても...

わかっているから。

蜜柑が入れてくれた八獣のアリスは残り僅か。

でもそれが、降る雨と流れる川が混じるように、心を重ねてくれている気がした。

琥珀の代わりに、僕が哀しいと言うよ。

傷口に染みないように、僕が覆い隠すよ。






蜜柑をみたのは、その葬儀が最後だったそうだ。

母の葬儀で泣くこともできなくなっていたという蜜柑。

しかし最後は、みんなを心配させまいと笑って、手を振った。

それが目に浮かぶようで、余計悲しかった。






リンが最後に会った蜜柑は、あの契約の夜。

お互いが迷宮棟に隔離される前。





「リン、いっぱい守ってくれて、ありがとうな」

母を亡くしたあとだというのに、蜜柑は目に涙をためてそう言った。

リンは守れなかった、と首を振る。

確かにあの時のことは、誰にも予測できないことばかりだったけど...

でも、もう少し早く気づければ...

バリアを広範囲にはれてれば...

結界を使っていれば...

守れたかもしれないのに...

起きたことを前に、そんなことを思うのは無意味だとわかっている。

だけど、悔しくて、哀しくて、たまらなかった。





「リンの潔白が証明されてよかった。

アリスがなくなっても、リンはリンやから...

ウチはなんも変わらんよ。

リンのお母さんが残してくれたものは、アリスだけやないはずや」

思い出すのは、梓の顔。

自分も哀しくて苦しくてたまらないはずなのに、こうして私を思いやって...





「ありがとう、蜜柑...

必ず、あんたのこと守るから...」

蜜柑と、強く強く抱き合った。

私ばっかり自由になっていいはずがない。

必ずあの男を、初校長を...





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