▽初等部・男女主W


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私は、自由を手に入れた____




生まれて初めての“自由”




今まで、望むことすら許されなかったもの。




それが急に、目の前が切り拓かれ、限りなく広い大地のように横たわっていた。




ずっとこのまま、暗闇の中を、わずかな光を頼りに生きていくのだと、そう思っていた。




学園にきて、蜜柑や琥珀と出会い、こんな私でも照らしてくれる仲間と出会えたから、

たとえ暗闇の中でも、希望を感じることができれば、それでいいと思った。

前よりもはるかにましな生活。

同じ年ごろの子どもたちと過ごし、教育を受け、任務はあれど、安心して寝られる寝床もあった。

温かい食事もあった。

これ以上、何を望もうか...





任務で心が擦り切れそうな夜も、そう思って、耐えていた。

あの男の、人とも思わないゴミを見るかのような蔑んだ目をみても、どこか自分はそれがお似合いなのだと思った。

物心ついたときには黒く染まり切っていた自分に、人並みの幸せなど、訪れないのだと...

あきらめ、受け入れていた。





だけど今、自分の中にその枷となるものがひとつもないのだ...

あのまばゆい光とともに、私を縛り付けていたものはすべて、消し飛んだ。





初めて手にするそれは、どこまでも飛んでゆけるような軽い感じもしたし、

ずっしりと、体中にしみる質量を重くも感じた。

その先には道もなく、頼りになる道しるべもなくて....

ただただ、歩み方がわからなかった。





自由は、広すぎた。





私はこれから、この手にしたものをどうやって抱え、歩めばいいのだろうか...

どう、歩きだしたらいいのだろうか...





わからない。

悦びよりも戸惑いが先にあった。

誰の手もなく、誰の背中も見えないこの“自由”というものは、私にとって恐怖を覚えさせた。





独りきりの自由は、とても怖い____






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