長めのはなし

□静雄さんの「飲む」話(5)
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「なるほど。運び屋も大変なんだなあ」
瞬間ハッとした。
そうだ、俺は苗字さんには自分の仕事の事をキチンと伝えていないんだった。
運び屋の仕事がどうだこうだなんて、俺には一切分からない事だから、
話題をそらそうとする。
「あの、苗字さんは明日大丈夫なんすか」
「え、ああ。おう。土曜だしなあ。全然平気だぞ」
ありがとうな、と、ニッコリ笑った苗字さんを見て安心する。
ずっとこんな関係でいられればいいと思った、
俺は平和島静雄じゃなくって
シズオさん。苗字さんの友人のシズオさん。



松屋を出て苗字さんとそぞろ歩く、
アニメショップやらなんやらが
多い東口とは違い西口付近では
サラリーマンの姿が多く見える気がする。
もっともこの時間帯なので人の通りもまばらだけどな。
苗字さんは鍋が店の外にまではみ出している中華料理屋の前で、
立ち止まった。

「俺はこの辺でたくちゃん拾うよ。シズオさんはどうする。のるか?」
「あ、いや。俺歩いて帰れるんで平気っす。苗字さん大丈夫なんすか」

終電もないから仕方ないだろう。と笑う苗字さんの背中が
寒そうに見えてすこし支えてやりたいようなそんな気持ちになった。
そんな俺の心配もよそにやってきた緑のタクシーに乗って、
ばいばいとでもいったのだろうか、口がぱくぱくとうごいてるのに、
エンジン音で何も聞こえない。
ったく。苗字さんはほおっておけない人だよな。
光るテールランプに背を向けて俺も家に帰ろうか。



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