短いはなし

□船と部屋は青い
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「臨也。朝だよ。」
ドアの前に立って傷口を守るように立つ俺に苗字は制服のままそう告げる。
「知ってるよ、四時だろ。入れてよ。」

部屋の中は薄い青だった。
それしかない。
簡素なベットに飾り気のない冷蔵庫の横に制服とジャージが数枚かかってる。
それだけだ。
ただただ静かで時々聞こえる電車と踏切の音がここが地球だという確証を俺に持たせる。

苗字は座る俺の顔をじっと見ている。
制服のまま立ちつくすその姿が滑稽で少しだけ笑う。
「臨也、怪我は。」
「腕、ガードレールかすった。……もしかして待ってたの。」
苗字は静かに冷蔵庫から救急箱を出す、
そこは棚じゃないって何度言ったら分かってくれるんだろう。
冷たい消毒液を冷たいコットンに浸して、冷たい指で俺の傷口に
冷たいその液体をしみ込ませる。
「臨也、これは既定事実だよ。」
「なんで言ってくれなかったんだ。おかげで痛い目見た。」

シズちゃんなんか死ねばいい、と呟けば苗字は素早く俺の腕に冷たい薬
を刷り込み冷たい包帯を巻いてくれる。
「臨也、平和島静雄は死なない。」
あっそう。と言って苗字の頭を撫でてみる。
何も言わずに苗字は俺の顔を凝視してる。
されるがままにされる苗字に満足して
苗字の唇を一撫でし、立ち上がる。
「明日学校行くだろ。寝るからベット貸してよ。」
「臨也、明日はもう船の準備を始める。」
臨也、寝台は好きなように。と言って苗字が冷蔵庫にまた救急箱をしまう。
ああ、そうか。

「帰るの。」
「臨也、肯定するよ。」
青い部屋はそのうちに唯の部屋に戻るのだ。
それはそう遠くなくて、俺は小さな傷でも苗字じゃなくて新羅に診てもらう様になる。
そうして、俺は完全に人間だけを愛するようになる。
「苗字の星ってどんな場所なの。」
「臨也、言語化ができない。」
ぐるりと黒い瞳の中に俺の赤い眼を見つけて少し安心する。
大丈夫だ、苗字はきっと。
「臨也、君にはまた会うという既定事実がある。」
帰ってくる。

「そうか、なんでもいいけどさあ?手握ってよ、寝れない。」
冷たい指先が俺の指と指の間に滑り込んでくる、
それを絡めとって握りしめると、苗字が少しだけ笑う。




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