短いはなし

□バイト君は憂鬱である
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腕時計をちらりと見ればいつもはもう夕飯を食っている時間で、
それがまたひどく悲しい。



「あっれえ?苗字君じゃない。
 定時過ぎてるのにいるなんて珍しいなあ。」
知らないうちにどうでもいいほうの上司が帰ってきたようで
あのうざったいもこもこのコートを脱ぎ俺の横に立っていた。
「あ、折原さんおかえりッス。期限守りたかったんで。」
ヘラリと笑い出来上がった資料を渡せばこいつもまあどうでも良さ気に
受け取りへいへい下がってよろしいというように手をひらひらさせる。
ありがとうの気持ちがないのは本当に感心できない上司だ。
「ウィッス。おつかれした。」
ゆっくりとお辞儀をし鞄に荷物をつめだすとこの馬鹿雇い主が
「ねえ。」
と声をかけてきやがる。面倒だがこれも部下の務め!ちゃんと答えてやろう。
「はい。なんスか。」



「これからさあ。一緒に寿司食いに行こうよ。」
爆弾発言。こんなの聞いたの初めてだと思う。
だがしかし!俺がフラグ立てたいのはアンタじゃない浪江さんなの!
何言ってんだこの上司はそんなに年変わんないはずだけどな、
なんだろうなこの思想のミスマッチング!
「勿論、奢ってあげる。だってこれは苗字君へのご褒美だからね。」
ニヤニヤと俺に条件を告げる折原さん。
前言撤回。男同士仲良く寿司食ってんのもいいじゃない。
結構話良い人じゃないか、折原さん。


「あざす!行きます行きます!」
このフラグたてなきゃよかったと俺が思うのは
もうちょっと先の事。




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