短いはなし

□高速道路と兄の話
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「貴方、凄く気持ちの悪い顔で寝ていたわ」
目の前にあるのは見慣れた天井で、
聞こえるのは優秀な秘書の声だ。
ああ、また俺はあの夢をみていたのだろうか。
「やだなあ、波江さぁん。俺の美しい顔が気持ち悪いだなんて!疲れてるのかな?」
秘書は相変わらず表情を変えることもなく、
そうね、貴方の中では美しいのよね、といってまた黙って仕事に戻ってゆく。



あの夢だ。
毎度毎度、起きるたびに自責の念に囚われる。
いるはずのない「兄」との幸せな記憶。
俺の兄弟は残念ながらあの双子だけだし、
ポケモンは俺はさほど好きではないし。
いったいぜんたい、わけのわからない夢だと思う。
兄の事は起きてしまえばもう顔も思い出せない。
だけど、ふとした瞬間あの不思議な感覚を思い出すのだ。
浅黒く日に焼けた元気そうな男の子。
ぼんやりとした赤っぽい光のついた高速道路。
妙にかすれたハイウェイラジオ。



俺は人を愛してるけれど、
空想の中の人までは愛せないんだよ。
と、兄に伝えれば少し楽になれるのだろうか。
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