長めのはなし

□静雄さんの「飲む」話(5)
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場所は池袋、松屋池袋東口駅前店。
時刻は25時と深夜帯に分類される。
食券機の前で、顎に手を当てて悩むサラリーマン風の青年。
俺は、ほかほかと温かい牛めし(並)の乗ったプレートを
カウンター席の机に置いて彼に声を掛ける。
「苗字さん、席とっておくんで早めに決めてくださいね」
サラリーマン風の青年あらため苗字さんが困ったような顔で振り向いて、
「了解です。……俺も牛めしにすっか」
同じく困ったように呟いた。
食券機に千円札を噛ませてそそくさと、バイトの兄ちゃんの所に歩いていく
苗字さんを眺めながら、欠伸をのみ込む。


俺と苗字さんの食事の話をしよう。
苗字さんは自炊が好きな人で、
何かをつくっては俺に食べてほしいとチョクチョク誘ってくれる。
真逆に俺は、料理というか飯にあまり頓着しない性分なので
飯というのは大抵外食で食っちまう事が多い。
そのせいか大概二人で飯を食う時は、苗字さんの家で
苗字さんが作った料理をつつくっていう形式がほとんどだ。
だから、今日仕事帰りに松屋に向かうと言う苗字さんに会ったのは
なんというか以外で新しい一面を見た気がした。



「スマン、待たせた。先に食っててもいいのにシズオさんは律儀だなあ」
「いや、大丈夫ッス。食いましょう」
隣の席に苗字さんが腰掛たので、二人で両手を合わせ飯を食う。
ほかほかの牛めしは、うまいけどなんだかやっぱりジャンクフードだと、
ぼんやり思ったり。
「苗字さんも今日は妙に遅かったんですね」
「仕事が長引いてね。シズオさんも、今日は仕事だったのか?」
お互いに飯をかっ込みながら、もさもさと喋る。
今日はすこし相手方の事情で(まさか取り立て相手が逃げだしたなんて
言えるはずもねえから)少し長引いたんだと説明した。





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