長めのはなし

□静雄さんの「飲む」話(8)
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東京メトロ有楽町線・新木場行に飛び乗る。
俺の心臓はバクバク言っていた。
行き先は苗字さんと初めて会った飯田橋だ。
苗字さんの勤め先は、
飯田橋駅の近く早稲田通りに面した
雑居ビル内だというもの知っている。
飯田橋駅を速足で降りると、
俺は肩で風を切って苗字さんの所へ向かう。



苗字さんという大人についての話をしよう。

俺は正直なところ、
この人がどうやって昼間暮らしているのかを知らない。
いつも会うのは夜中か休日だし、
苗字さんは仕事から解放されたような
リラックスした態度で俺に接していたから。
いや、俺が仕事に関係のない人間だからこそ
こうやって踏み込めたのかもしれない。
その根拠としてあの人は、
自分の仕事を深く話したがらなかった。
だからなのか。仕事の後疲れきっているはずでも
落ち合うのは、苗字さんの家の近くか池袋と相場が決まっていた。
苗字さんと飯田橋で呑んだのは
初めて出会ったあの時が最初で最後だ。




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