長めのはなし

□静雄さんの「飲む」話(7)
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例えば初めに苗字さんに俺が打ち明けていたとして、
苗字さんは俺を受け入れていただろうか。
一人ちっせえちっせえアパートの隅で、
このちっせえちっせえ頭を働かせる。
考えて考えて思い出すのは、
兄貴の様なそれでいて父親みたいな、
ふにゃっとした苗字さんの笑顔だった。
出会いは正直覚えてねえ、気が付いたらあの人の部屋にいた。

薄いアパートの壁から外の街の音が聞こえる、
生きてるみたいにざわめくこの町の声。
外に、街に、どこにだって人は溢れてるのに、
分かってくれていたたった一人が去っただけでこんなにも孤独なのか。

いや、前から孤独だった。

そこに現れた太陽みたいな優しい人が、消えてしまっただけなんだ。
それもこれも自分のせいで。
こんなことになるんだったら知らないほうがいい優しさだった。
怪物が日の光を浴びたら溶けちまう、それだけだったんだろ。
俺の思考は初めに考えていた事とは違う終着点に着き、
だんだんと眠りの海に沈んでいった。



デュラハンの話をしよう。

昔好きだったゲームに出ていたデュラハンは首のない男で。
日の光を浴びると死んでしまうソイツが仲間だったから、
いつも俺は日陰をルートにしてゲームをプレイしてた。
今の友達……セルティも、デュラハンらしいが、
アイツは日向でもなんでも大丈夫そうだ。

でも俺は違う、実際に日の光を浴びようがなんの事もねえけど、
人のあったかさ、太陽みたいに包まれたら、
あのゲームの中のデュラハンみたいに、

日陰で隠れて、
――嘘をついて、

それでもどうしたって日の当たるそこを目指していって自分で消えちまうのだ。

憧れ。どうしようもない憧れ。

化け物みてえなこの体にやどっているのは、
馬鹿でどうしようもなくて光を望んでいる人間なんだ。




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