長めのはなし

□静雄さんの「飲む」話(6)
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油のパチパチと跳ねる様子を見て苗字さんは満足げに笑っている。
菜箸を片手に俺が鍋の中を
覗き込もうとすると苗字さんは
慌てたように手を振って俺を遮った。
「あぶないぞ。油が目に入ったらどうすんだい」
平気だと言おうと苗字さんの顔を見れば、
困ったような笑い顔で少し申し訳なくって黙ったり。
衣がまだ霜の解けないままな冷凍コロッケが油を泳いでいる。



冷凍コロッケの話をしよう。
苗字さんと俺がたわいない会話を
メールで交わしていた時の事。
いつもの事なのだが苗字さんは無意味に絵文字を
メール内に組み込んでくるんだが、
その中でも異彩を放っている絵文字がコロッケだった。
文末に無意味なコロッケ。
例えば、

明日は良い天気みたいだなコロッケ

こんなのもある、

シズオさんは体の様子どうだ?コロッケ
最近会社の食堂のおばちゃんがおまけしてくれんだよコロッケ
今度予定開いてるか?コロッケ

あげくのはてには

まじか!コロッケ

どうみてもコロッケに思い入れがあるんだろうが、
いつもコロッケの絵文字を見ているだけなのもすっきりしねえから、
とうとうその日苗字さんに聞いてみたんだ。
『もしかしたらなんすけど、
 苗字さんってコロッケめっちゃ好きなんですか』
元々メールの返事が早い苗字さんだが、
いつもよりかなり早い段階で返事が帰ってきたんだ。
『!?なぜそれを!?』
分からない奴の方がいねえだろ。





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