短いはなし

□恋心というものは!
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白い自転車は彼の来店を示すサインだということを気付いているのは
もしかしたら自分だけもしれないと竜ヶ峰帝人は考える。
彼というのは近所の公立男子高の制服を着た妙に目鼻立ちの整った学生の事だ。
竜ヶ峰帝人は彼の「一方的な知り合い」である。
一方的な、というのは言葉の意味そのままで、帝人は常に彼の事を意識するが、
彼「苗字名前」は帝人の事を帝人自身が
物凄い気を引くような事をしなければ一切意識しないということ。
帝人は彼の事をよく知っているが多分、そう多分
竜ヶ峰帝人の予想だけで言うことになるが帝人の存在自体を知らないはずだ。
ここまで書いていて察しの良い人は

(まさか!)

と思いながらも薄々気づいているのではないだろうか。
そう、竜ヶ峰帝人は恋をしている。苗字名前に。


始まりはどうでもよい事だった。
苦学生である帝人が近所の安いくて旨い!と評判のサンドウィッチを置く
喫茶店に初めて足を踏み入れた時のことである。
評判のサンドウィッチは非常に美味しく、財布に優しくて
帝人は満足していたのだが、困ったことに会計の前に
財布をどこかへやってしまったのだ。金をとりあえず借りようと
友人にも電話を掛けるが連絡が付かず「無銭飲食!池袋の高校生(16)」
と新聞紙の地方面に載ってしまうことまで思考が行き、
絶望のなか溜息をつく帝人に彼、そう苗字名前が歩み寄って
「落し物ですよ。」
と微笑み財布を渡してくれたこと、たったのそれだけだったのだ。




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