短いはなし

□バイト君は憂鬱である
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浪江さんという人はすごく魅力的だと思う反面、
折原さんという人はすごくどうでもいい存在だなと俺は感じる。
情報屋というのはもっとかっこいいものだと思っていたから
折原さんを見てしまってすごく後悔してしまった。

「目指していたものとかけ離れてたんス。」
浪江さんが白くて長い指で髪を払う。美しい、動きが、表情が。
「でしょうね。あれが目標なんていったら笑ってしまうもの。」
気が強い言葉遣いとか物腰も彼女に似合ってて俺はイイ!と思ってしまう。
嗚呼、浪江さんこそ俺の思う
「スパイ・情報屋」=「危険な女」の等式に当てはまるお方だということ。
それは紛れもない事実だと。この大空に叫びたい。
「ですよねぇ。あ〜あ、どこで間違っちゃったもんかなあ。」
がりがりと頭をかきながら呟く俺に浪江さんはあきれたように一喝!
「貴方の人生なんてどうでもいいの。早く仕事を片付けて頂戴。」
「ああああ!!了解ッス!」


いいねえ、浪江さんはいいねえ。こうなんていうか……ぞくっとくる。
やっぱり俺、間違ってなかったのかも、折原さんの所にきちまったのって
浪江さんに出会うためのちょっとした試練だったのかもしれない。
そうだよね、あー!そうだぞぉおお!頑張れ、頑張れ。
その浪江さんの為に早いところこの資料をまとめるんだ俺!



――すごく頑張ったのはいいことだ。
そこは自分を褒めるに値する事だし、事実悪いことは一切無かった。
でも本来の目的は何だった名前。そうだ。
そうなんだよ!「浪江さんに褒めてもらう」
これだったじゃないか!嗚呼……馬鹿だ。俺って馬鹿だ。
定時になったら浪江さんはすぐ帰ってしまう。
そんなのずっと前から分かってたことなんだ……。
夢中で資料を作っていた俺は浪江さんがさっさと帰ったのも
気付かずに、ずーっと作業を続けていたようで。
もうオフィスに浪江さんの姿は無かった。



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