短いはなし

□高速道路と兄の話
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妹達が生まれる数年ほど前、
俺は一度だけ家族旅行なるものに連れて行かれたことがある。
行った場所だとか何をしただとかいうことは、もうほとんど思い出せないが、
帰りの高速道路がひどく混雑していてイライラしていたことはよく覚えている。
夜の高速の車内と言ったら暗くって「暇つぶしに」と持ってきたゲームボーイも
役に立たなかったし、疲れ切った母は静かに眠ってしまうし、
父はただただ黙っていたものだからすごく暇だった。
それは一つ年上の兄も変わらないようで、
二人できゃいきゃいと騒いだのはとても良い記憶に思える。










「あーひまじんすぎるう。渋滞って後何キロあるのさー!」
兄は短気な性格で、イライラすると足をばたつかせる癖があった。
ばたばたと足を大げさに振りながら大声で叫ぶ兄に俺はシ!と人差し指を出す。
「さっきのラジオ聞いてなかったの?ほんと兄貴はおバカさんだよねぇ。」
ぬおぅともぬわぁとも、よくわからない声を絞り出し俺に兄は抗議の声を挙げる。
「そんなことはどうでもいいんだよー!もう家の布団でねてー!」
俺は兄のこういう餓鬼臭い所が嫌いじゃなかったから、
よしよしと頭をなでてやるのは自分の仕事だと思っていた。
「もうちょっとですよー!もー、兄貴うるさいんだから。」
下唇を出し恨めしそうな顔をする兄と頭をなでる俺を見て、父は可笑しそうに小さく笑い。
「これじゃあなぁ、どっちがお兄ちゃんなんだかなぁ。」
と呟いてこちらにまた声をかける。
「んーし。それじゃあれだ。お前らの好きなポケモンのカセットかけてやるからな。」
おお!と兄と声を挙げてハイウェイラジオを切り、アニメソングのカセットをつける父に
わぁわぁと騒いでた内に二人ともねていたりして。
あの頃は俺も愛する人間の一部だったのかもしれない、と少し思う。
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